TOPICS トピックス
  • HOME
  • トピックス
  • 「意思決定に踏み込みすぎない」支配人が語る、地域とのつながり

「意思決定に踏み込みすぎない」支配人が語る、地域とのつながり

SEKAI HOTEL 大阪布施は、商店街の中に点在する建物を客室として使い、まち全体をひとつのホテルに見立てて運営する「まちごとホテル」。この取り組みは、ホテル単体で完結するものではありません。商店街の店主、建物の持ち主、地域住民の皆さまとの関係の上に成り立っています。今回お話を伺ったのは、その関係のまんなかで日々判断を重ねている、SEKAI HOTEL 大阪布施 支配人・岡本香乃。現場の担い手として、まちとホテルのあいだに立ち続けてきました。商店街や地域との関わりについて、現場の視点で宿泊者10,000人を振り返りました。

岡本 香乃(おかもと かの)プロフィール

SEKAI HOTEL 大阪布施 支配人。

学生時代からインターンとして関わり、2024年新卒入社。入社半年で3代目支配人に就任。交換留学の経験を活かし、国内外のゲストと布施のまちをつなぐ現場づくりを行っている。

地主様からお声掛けいただいた初事例

2025年に新たに増築した客室棟『N8.Doors』『N9.Doors』は、初めて地元の地主様が「所有する土地で、SEKAI HOTELを」と声をかけていただいて実現した客室です。まち側から受け入れていただいた形でスタートできたことは、私たちにとって大きな出来事でした。

この客室棟は、私自身も支配人として、デザインのアイデア出しに関わりました。これまでのインダストリアルでクールな印象のデザインから、「町工場」のコンセプトはそのままに可愛らしい雰囲気へと転換した空間でもあります。これまでの宿泊ゲストの声や傾向を踏まえ、「今、求められている過ごしやすさ」を反映。その結果、「かわいい」「入口の印象が変わった」といった反響を実際にいただいています。客室が、まちに入っていく前の気持ちをやわらかく切り替える“入口”として機能している実感があります。

そして何より、この土地を貸してくださった地主様ご自身が「どんなふうにお客さんがお部屋で過ごしているのか」「ちゃんと予約が入っているのか」と、その先まで気にかけてくださっていることが、現場としてとても心強いです。

現場が主役でいられるための距離感

意外に思われるかもしれませんが、SEKAI HOTELは商店会組合と公式な連携をしているわけではありません。それは「まちを盛り上げたい気持ちがない」からではなく、“外から来た私たち”が、まちの意思決定に踏み込みすぎないための距離感だと考えているからです。布施には、これまで積み重ねられてきた歴史や風土があり、まちの形があります。その中心を決めていくのは、やはり地元の人たちです。

一方で現場では、スタッフ一人ひとりが、お店の方と人として向き合い、関係性を育てています。代表の矢野が意思決定者と関わりすぎると、現場が主役になりにくくなることもあります。だからこそ、現場が自由に動ける余白は、私たちにとってとても大切なものです。

ゲストに“ブランド”を一番濃く伝えられる瞬間

宿泊料金の一部を、布施のまちや子どもたちの未来に還元する取り組みが『 Social Good 200』 です。私たちは、ただ説明して終わりではなく、ゲストが主体的に関われるよう、使い道をいくつかの選択肢に分けています。チェックアウト時にご説明すると、「素敵ですね」と言っていただけることが多く、自然と質問も増える。結果としてこの時間が、「私たちが何者か」を一番濃く伝えられる接点になっています。

Social Good 200の資金を活用して実施している「icoima」は、月1回の海外文化体験イベントです。地域によって得られる機会に差がある中で、学校や家庭だけでは触れにくい世界を知るきっかけをつくりたい、という思いから始めました。リピーターが増え、学校帰りにふらっと立ち寄ってくれる子が出てきたとき、フロントが「居場所」として、少しずつ形になってきていると感じました。

「地元を誇っていい」と思える体験をつくりたい

地元の子が働いてくれることには、私は大きな価値があると思っています。私が支配人になってから、布施出身の学生がアルバイトとして働いてくれる機会も増えました。実は私自身、かつては自分の出身地を「何もない場所」だと思っていて、自信を持って語ることができませんでした。でも、「自分の地元にもいい場所がある」と知ることは、メンタリティとしてとても大事なことだと、今は感じています。

SEKAI HOTELで働くことは、ただお店の情報を覚えることではありません。知ったことをゲストに伝え、実際に喜んでもらえたという手応えまで含めて経験できる。その積み重ねが、「ここで自分は活躍できている」という自信につながると思っています。実際に、地元スタッフが自身の思い入れのあるお祭りにゲストを案内した経験から、「もっと布施を盛り上げたいと思った」と話してくれたことがありました。自然に出たその言葉が、本当にうれしかったです。

ゲストが一番持ち帰るのは、「おいしさ」より「人の温かさ」

実際にゲスト様からアンケートで一番いただくのは、「まちの人が温かかった」という声です。しかもそれが、「どのお店も優しかった」「どこでも歓迎してくれた」というように、まち全体として語られている時ほど、満足度が高い印象があります。これは、布施の風土が大きいと思っています。布施で長く商売を続けている方ほど、「来てくれたお客さんは喜ばせるべきだ」という感覚が自然に根付いている。ローカルだから閉鎖的、というのとは逆で、いろんな人を迎え入れる土壌が、この布施のまちにはあります。

そして、そこに「SEKAI PASS」という仕組みが効いている瞬間も。「SEKAI HOTELのゲスト」と分かる目印があることで、お店の方も声をかけやすくなり、ゲストにとっても「ここはパートナーショップなんだ」という安心感が生まれる。その小さな“目印”が、宿泊ゲストとまちとが重なる一歩を軽くしている感覚が、確かにあります。

おわりに ――私がつくりたい現場

結局、私がやりたいことは、とてもシンプルです。ゲストにとっては、まちに混ざる入口でありたい。まちの人にとっては、ふらっと立ち寄れる居場所でありたい。

そのために、客室も、フロントも、関係性も、少しずつ更新していく。布施というまちの温かさが、ゲストの記憶に残り、その温かさの中に、私たち自身も混ざっていける。そんな現場を、これからもつくっていきたいと思っています。