布施・プチロード広小路商店街を歩いていると、不意に視界に飛び込んでくる黄色い外壁。「おぼこ飯店」という赤文字の暖簾が、まるで映画のワンシーンのようにそこにある。
観光でもグルメでもなく、これは街の“いつも”の味。
だけど、旅人にとってはそれがいちばん贅沢だったりする。町の音に耳をすましながら、ふらりと暖簾をくぐってみた。
黄色い外観が、今日も食欲を誘う
布施駅を出てすぐのアーケードを進んでいくと、商店街の一角に、不思議と目を引く建物がある。黄色い壁に赤い文字の暖簾。「おぼこ飯店」。何度も前を通ったことがあるような気がするのに、なぜだか今日だけは、立ち止まってしまった。
創業当時より、地元の人たちの“お腹”と“暮らし”を支えてきたという。特別なものは何もないけれど、それがいい。ここにあるのは、きっと「いつもの」ごはん。
平日のお昼は、ちょっとした“戦場”
引き戸を開けると、いきなり湯気と音に包まれた。フライパンの音、お玉が鍋肌を叩く音。厨房から立ち上る熱気が、カウンター越しにも伝わってくる。スタッフの掛け声と、常連客の何気ない注文が混ざり合うこの感じ。
カウンターに座ったら、目の前で炒められていく野菜や米をぼーっと眺めてしまう。食欲って、こういう空気で加速するんだろうなと思う。
名物「カレー焼飯(やきめし)」、ふわりと届くスパイスの誘い
ふと、どこからかカレーの匂いが漂ってくる。スパイスと油が混ざった、あの香り。ふと隣の人の「カレー焼飯(やきめし)、ひとつ」という声に頷きそうになる。いや、もう、頼むしかない。
出てきたそれは、炒飯というより“作品”だった。
黄色く染まった米の上に、とろりとのった黄身。香りを嗅いだ時点でもう勝負は決まっていて、スプーンを入れた瞬間、ほどける米粒がその答えをくれる。
ピリッとくるけど、どこかまろやかで。お腹がすいてるときには何よりも効く。そんな一皿。
「ついでにもう一品」が、楽しいのも町中華
食べている間も、厨房の手は止まらない。次々と餃子が焼かれ、定食の皿が並んでいく。その中で、なんとなく気になった餃子を追加で頼んでみた。
330円の小さなごちそう。皮はパリパリで、中の餡がしっかり。昼間から瓶ビールを頼む常連さんの気持ちが、ちょっとわかる。
定食メニューも侮れない。メインに、サラダ、副菜、卵スープに白ごはん。仕切り付きのプレートにずらりと並んだおかずは、まるで誰かが「たくさん食べや」と言ってくれているみたいで、やさしくて、ちょっと嬉しい。
中華そばも、春巻きも、オムライスも
ラーメンじゃなくて「中華そば」が食べたい日ってある。ここには、そんな気分にぴったりの一杯がある。中太のちぢれ麺に、あっさりだけどコクのある醤油スープ。町中華で食べるからこそ、しっくりくる味。
春巻きは、人数多めで行ったときの楽しみ。お皿いっぱいに並んだ、皮パリパリの春巻きは、箸をのばさずにはいられない存在感。
そして、知る人ぞ知る「オムライス」。薄く焼かれた卵に包まれたチキンライス。トマトソースじゃなくて、ケチャップ。あえての選択が、なんだかうれしい。オムライスって、こんなにほっとする味だったっけ?と、ふと思う。
ローカルを味わう贅沢
「観光スポットです!」みたいな顔をしていないのに、どこよりも“そのまち”を感じられる場所ってある。「おぼこ飯店」は、まさにそんなお店だった。
日々の喧騒の中で、ごく当たり前に存在しているのに、旅人の目には新鮮に映る。カウンター越しに感じる熱、湯気、匂い、音。そういうすべてが、このまちで生きている人たちの一部になっている。
SEKAI HOTEL Fuseに泊まるなら、昼でも夜でもいい。ちょっとお腹がすいた時に、ふらりと寄ってみてほしい。目当ての料理がなくてもいい。匂いと気配が、きっと次の一皿を教えてくれるから。