商店街の喧騒から少し外れた一角に、小さな灯りがやさしくともる。
布施駅から歩いてすぐの場所にある「布施酒場 かい」は、初めてなのに懐かしい、そんな不思議な居心地のよさがある。
今日の疲れも、誰かの笑い声にまぎれて、じんわりと夜に溶けていく。
ひっそりと佇む、知る人ぞ知る人気店
布施駅・東南出口から歩いて2分。ふと目に留まる、やさしく灯る看板がある。
それが今回のお目当ての「布施酒場 かい」。
のれんをくぐると、初めてなのにどこか懐かしい雰囲気が漂う。
商店街の賑わいから少し離れた場所にありながら、店内にはいつも笑い声があふれ、常連客や初めて訪れた人たちがゆったりと時間を過ごしている。
宝探しのようなメニューから始まる、夜のひととき
席に着くとまず目に飛び込んでくるのが店主・かいさんの手書きメニュー。
「今日はこれにしようか」「この一品はどんな味だろう」ーーそんなふうに眺めているだけでお腹が空いてくる。
筆で丁寧に書かれた文字たちには、店主の几帳面な人柄とちょっとのユーモアがにじんでいる。
お客さんの食欲と好奇心をそそり、料理を待つ時間さえも楽しませてくれる。
宮崎の風、ふわりと香る一皿
数あるメニューのなかでもおすすめは、宮崎出身の店主が腕をふるう「チキン南蛮」。
「とりあえずチキン南蛮頼んでおけば間違いない!」常連さんも太鼓判を押すこのお店の看板メニュー。
地元・宮崎のあまい醤油を使うのが店主のこだわり。
甘酢をたっぷりと鶏肉に染み込ませ、その上から特製タルタルソースを贅沢にかける、まさに、本場の味。
ツヤツヤとした見た目が食欲をそそり、ひと口頬張れば、思わず笑顔になる一皿だ。
お肉料理のおすすめは、チキン南蛮だけではない。
和牛たたきや蒸し豚も常連さんに根強い人気を誇る一皿だ。
和牛たたきは、やわらかくてとろけるような口どけ。
単品でしっかり味わうもよし、たたきがたっぷりのったサラダとして楽しむもよし。
気分やお腹のすき具合に合わせて選べるのも、うれしいポイント。
蒸し豚は、じっくり火を入れることで脂の甘みが引き出され、しっとりジューシーな仕上がりに。
ピリッと辛いキムチとの相性も抜群で、お酒がどんどん進む味。
「一度食べたら、もう他では頼めなくなるよ」と常連さんが語るほど。
旬のお魚を使ったお造りも見逃せない。角ひとつ乱れず並んだお造りからは店主の丁寧で几帳面な性格が表れているようだ。
どれも魅力的で、一つに絞りきれない。そんな悩む時間ですら、このお店の楽しみ方なのかもしれない。
のれんの向こうに積み重ねた時間
宮崎を出てから大阪で料理の修行を続け、たどり着いたのが、’’布施’’。
「最初は正直大変でしたよ」と少し笑いながら語る。
代々続く老舗のお店が多いこのまちで、新参者がお店を出すのを快く思う人ばかりではなかったそう。
それでも、のれんを掲げ、コツコツ料理を続けてきた。
お店を始めて10年以上、今では顔馴染みの常連さんができて、笑い声で溢れるあったかいお店になった。
「居心地いいですよ、布施はあったかいですから」
旅の隙間に、心ほどける夜を
ひとり静かに味わいたいときも、誰かと語り明かしたい夜も。
このお店はどんな時間もやわらかく迎えてくれる。
気負わずいれて、どこかあったかい。
ここはきっと、通うたびに好きになる、そんな小さな酒場の話。