布施のイオン、4階。エスカレーターを上がったその先に、ひっそりと時間が立ち止まっている場所がある。「ピァ・ジョリー 布施店」。
昭和から平成を駆け抜けたファミレス文化の、生き残り。ドリアも、星座占いも、赤い車のお子様ランチも、変わらぬままそこにある。
ここには、あの頃の「家族の外食」が、まるごと残っている。ひとくちごとに、胸の奥がくすぐられる。
昭和と平成の真ん中で、時間が立ち止まる
布施駅を出てすぐ、ヴェルノール布施(旧ビブレ)のエスカレーターを4階まで上がると、不意に空気が変わる瞬間がある。
色とりどりのパフェ、艶やかなドリア、うどんにハンバーグにスパゲッティ……食品サンプルがぎっしり並ぶショーケースの前に立つと、不思議と胸がざわつく。
ああ、これ知ってる。どこかで見た。いや、むしろ、自分の中にちゃんと残っていた風景。
「ピァ・ジョリー 布施店」。1986年、ダイエー倉敷店で生まれたファミリーレストランが、ここ布施に残っている。かつては香里園や長吉にも店を構えていたが、今この布施店が唯一の現役だ。
店名の「ピァ・ジョリー」は、創業者が旅先で出会った港町の風景に、なにか大きな希望を重ねたのかもしれない。
緑のビニールソファに腰をおろせば、背中をやさしく押してくれるような懐かしさがある。ぶらさがる飴色の照明、テーブルの星座占い、微かに聞こえる厨房の音……昭和の香りを、誰にも邪魔されずに味わえる時間だ。
洋食ごちそうの王道、シーフードドリア
注文は、やっぱり「シーフードドリア」から。運ばれてきたのは、湯気の向こうでチーズがとろける、あの“ごちそうの定番”。スプーンを入れると、下から現れるのはバターライス。海老、イカ、アサリがたっぷり入っていて、口に運べばじんわり幸せが広がる。
ドリアって、特別な日のごちそうだった気がする。小さいころは熱くて食べづらかったけれど、それでも憧れて、口を火傷しながら食べた記憶がある。そんな昔の感覚が、ふっと蘇る。
それから、この店の心配りを感じるのが「ハーフサイズ」の存在。
スパゲッティやオムライス、カレーなど、一品一品がしっかりボリュームがあるなかで、少しずついろんな味を楽しみたい人には嬉しい選択肢だ。小さな子ども連れでも、大人ひとりでも、注文のハードルがぐっと下がる。
大人になっても、たまには“お子様”でいい
この店の名物のひとつが、「大人も頼めるお子様ランチ」。赤い車型のプレートに、卵ふりかけのご飯、唐揚げ、エビフライ、フライドポテト、ちょこっとサラダが彩りを添える。ドリンクもおもちゃも付いてこないけれど、心はしっかり満たされる。
大人になると、こういう遊び心を口実にしないと、なかなか自分を甘やかせなくなる。でもこの一皿は、「子どものころ好きだったもの」を、今の自分に届けてくれる。そんな包容力がある。
パフェの誘惑に、今日も負ける
食後、ショーケースの前に戻ってしまうのは、おそらく誰もが通る道。「プリンパフェ」、その響きだけでもう負けている。
届いたグラスの上には、ソフトクリームとさくらんぼ、生クリーム、そして堂々と鎮座するプリン。下にはフルーツとコーンフレーク、最後には缶詰のみかんがふたつ。甘さとノスタルジーが層になって、思い出まで口にしているような気がした。
パフェは、幸せの延長線上にある。いつも頼むわけじゃない。でも、「今日くらい、いいよね」と思わせてくれる店があるのは、ちょっとした救いかもしれない。
“変わらない”が、今はとても尊い
ファミレスといえば、効率化と均質化の象徴だったはずなのに。「ピァ・ジョリー」はその逆をいく。メニュー構成、店内の空気、細部のディテールまで、ほとんど変わっていない。でもそれが、今ではとても貴重に思える。
日々、街の景色は変わっていく。新しいものが次々と生まれる一方で、静かに姿を消すものもある。そんななかで、「ここは、ずっと昔のままです」と言ってくれる場所があることに、なんだか救われる。
布施で出会う、あの頃の午後
窓の外には、商店街のざわめき。けれど、店内にはゆったりとした時間が流れている。手を止めて、ゆっくり食べて、少し思い出に浸って──そんな贅沢な午後を過ごせる場所。
SEKAI HOTELに滞在するなら、ぜひこの「午後のタイムスリップ」を体験してほしい。布施の4階で、ひとときだけ“あの頃の自分”に会える場所。それが、「ピァ・ジョリー 布施店」だ。