布施といえば、赤ちょうちんやスナックのネオンが似合う。
しかしその一角に、まるで別の物語が始まりそうな扉がある。
鳥居マークの入り口をくぐると、そこは「奇貨屋 白昼夢」。
昭和レトロとサブカルの香りが入り混じる、小さな異世界。
懐かしさに足を取られつつ、どこか背筋がゾクッとするような、不思議な旅が始まる。
鳥居の先に、異世界はある
布施駅から歩いて7分。
にぎやかな商店街のちょっと外れに、それはひっそりと佇んでいる。
看板には「奇貨屋 白昼夢」とだけ。
けれど、目を引くのはその扉に描かれた鳥居マーク。なんだか、結界でもあるみたいだ。
恐る恐る扉を開けると、まず視界に入るのは、並ぶこけしたち。そして、鎮座するオオカミやら、鹿の剥製。
ここは、ちょっと変わった宝物が並ぶ場所。
ただの雑貨屋ではない。
昭和の忘れものたちと、どこかシュールでクセの強いモノたちが同居する、不思議な空間だ。
お気に入りを集めて、びっしりぎゅうぎゅうに。
店舗は階段を上がった2階にある。
天井まで物が詰まっていて、どこに目を向けてもワクワクする。
所狭しと並ぶのは、服、アクセサリー、人形、お面、昭和のアイドル雑誌。どこかの子どもが抱いていたであろうクマのぬいぐるみの隣に、どう考えても使い道のない骸骨の模型。
店を営むのは、ご夫婦。仕入れの基準は「好きなもの」。
昭和の駄菓子屋で見たような懐かしさもあれば、シュールなB級ホラーのポスターまで、どれも自分たちの“好き”を貫いているのが、伝わってくる。
終わらなかった夢
もともとこのお店、最初は昭和町、次は阿倍野にあったという。
けれど、どちらの店舗も建物の老朽化により、退去を余儀なくされた。
そこで選んだのが、布施の地。
「ここは商店街の空気が好きで」とご夫婦。新しい住まいもすぐ近くに構えた。
暮らしも、商いも、この町と一緒にやっていく覚悟が伝わってくる。
面白いのは、昔からのファンが追いかけて来てくれること。
SNSを見て、わざわざ他府県から、あるいは海外から訪れる人も少なくないらしい。
布施という町の“ディープ”に、新しい風が混ざり始めている。
「好き」を、商うということ
この店に入ってくる人たちは、みんなちょっと目がキラキラしている。
棚の隙間を覗き込んだり、知らないレトログッズに歓声をあげたり。
きっとそれは、モノの価値ではなく、「見つけた!」という感覚がそうさせるのだと思う。
何かに出会って、ちょっと笑って、でも心にひっかかって。
その“ひっかかり”こそが、この店の存在意義なのかもしれない。
「奇貨屋 白昼夢」という名前の通り、ほんの少しだけ現実からズレた夢の中にいるような気分になるお店。
日常にちょっと飽きたら、ふらっと鳥居をくぐってみるのも、いいかもしれない。