布施駅から歩いてすぐ。雑多な商店街を抜けた先、ぽつんと浮かぶハイネケンの緑。
「Bar Stax」は、騒がしくない夜にちょうどいい。カウンター越しに注がれるのは、たとえば今日の気分みたいな一杯。
会話があっても、なくてもいい。ただ、自分を削らずにいられる。そんな夜が、このまちには、ちゃんとある。
駅前のざわめきが、ふっと遠のく階段の先に
布施駅の北口から「ブランドーリ布施1番街」へ。
焼き鳥の煙、八百屋の声、帰宅途中の足音。
そんな日常のなかに、ふと赤い看板が浮かびあがる。
ハイネケンのネオンに誘われて階段を上がれば、そこが「BarStax」。
木のカウンターに反射するグラスの琥珀が、今夜のはじまりをそっと告げる。
「どんな気分?」から始まる、静かな対話
この店には、決まったドリンクメニューがない。
カウンターの向こうのバーテンダー 二飯田さんが、「今日はどんな気分ですか?」と訊く。
強めがいい日もあれば、甘さに癒されたい夜もある。うまく言葉にできなくても、気分をすくいとるように一杯が差し出される。
グラスの中に、自分の輪郭が少しずつ戻ってくる。
カクテルもウイスキーも、“空気感”で味わう
棚に並ぶ50本以上のウイスキーも、旬の果物のカクテルも、うんちくじゃなく空気で味わう。「甘め」「さっぱり系」——そんな頼み方で、充分。
黒板のおすすめに目をやるのもいいけれど、気楽に「おまかせで」と言いたくなる。飲むというより、その時間をいっしょに過ごす感覚。
明るくて、やさしいバー
照明はやわらかく、声もちゃんと届く。顔が見える明るさと、心がほどける距離感。カウンターのほか、2人掛けのテーブルやボックス席も。
チャージもないから、「今日は一杯だけ」の夜にもやさしい。そういう気軽さが、この場所を“特別じゃないけど帰りたくなる”場所にしている。
にじむ熱と、ゆるやかな連帯感
棚に並ぶ阪神グッズや、額縁のサイン色紙。どうやら二飯田さん、生粋の阪神ファンらしい。試合がある夜は、店内でひっそりライブビューイング。勝った日は静かにグラスを掲げ、負けた夜は少しだけ言葉が増える。
知らない人とも、自然と目が合い、うなずき合う。静けさの中にある、ちいさな熱。そんな夜の余白が、この店にはよく似合う。
甘さと塩気と、ちょっとした余韻
レーズンバターは、小さなごほうび。やわらかな甘さと塩気が、口のなかでゆっくりほどけていく。会話が止まったとき、氷の音が鳴ったとき、その間(ま)をそっと埋めてくれる。それもまた、この店のやさしさのひとつかもしれない。
観光地じゃない、暮らしの中の場所として
「特別じゃなくていい。でも、帰りたくなる場所でありたい」
二飯田さんのその言葉が、すべてを物語っている。
誰にも会いたくない日も、言葉を選べない夜も。その灯りはいつも変わらず、迎えてくれる。そう思うだけで、ふっと心が軽くなる。そんな“まちのバー”が、ここにある。