布施のまちには、“それぞれの一番”がある。
夜のネオンがゆらめく頃、ふらり吸い寄せられるように入った中華屋「ポパイ」。
湯気の向こうにいたのは、気取らない味と、それを支える人たちのあたたかさ。水餃子、レバにら、どーんと唐揚げ。
どれも、ただの料理じゃなく、まちの記憶をつなぐ手ざわりだった。
住所 | 大阪府東大阪市荒川1丁目5−19 植野マンションGoogleMap |
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電話番号 | 06-6729-2627 |
営業時間 | 17:00~24:00 |
定休日 | 火曜日 |
喫煙可否 | 喫煙可能 |
あのネオンに呼ばれて
布施駅から南へ徒歩5分。賑やかな喧騒がふっと静かになったところで、赤と緑のネオンがぼんやり浮かんでいる。「ポパイ」と書かれた文字は、少しかすれていて、それがかえっていい。
店先には、空き瓶、簡素なイス、寄せられた灰皿。きっちり整えられた風景じゃないけれど、こういう雑多さが、なんとも落ち着く。きっと誰かの昨日の名残り。まちの生活がそのまま染み込んでいる。
扉を開けると、あったかい空気と一緒に、じんわり懐かしい匂いがした。
「布施で一番うまい中華は?」
そんな会話が、このまちではよく交わされる。そこで名前が挙がるのが、ここ「ポパイ」。
もともとはL字カウンターだけの小さな店。
今では隣の空き店舗を増床し、テーブル席がいくつか並ぶようになったけど、黄色いカウンターとマル椅子の景色は、ずっと変わらない。
背筋を伸ばす必要のない店。どこかの帰り道みたいな、肩の力が抜ける場所。
だから、「一番やろ」って言いたくなるんだと思う。
水餃子は、はじめましての合図
まずは、水餃子。これが、間違いない。
むっちりとした皮に包まれた餡を噛むと、肉汁がじゅわっと溢れる。
酢醤油にラー油をたっぷり、が定番だけど、酢醤油+黒胡椒って食べ方も、クセになるうまさ。
その秘密は、餡に含ませた出汁。
毎朝、鶏ガラから丁寧にとるスープを、息子さんが静かに、でも手際よく肉だねに練り込んでいく。
目立たないけど、しっかり支えてる味。その感じが、この店そのもののような気がする。
音と匂いごと味わう、レバにら炒め
「ジュワッ」という音とともに、鉄鍋が火にかけられる。カンカンと鳴る金属音。広がる香ばしさ。
注文してからの数分間も、ちゃんとごちそう。
レバにらは、レバーがぷるんとやわらかくて、ニラの香りが食欲を引き立てる。
瓶ビールを片手に、湯気ごとかきこむ時間。「うまい」って言葉じゃ足りない、生活の味がした。
看板メニューは、唐揚げどーん
「ポパイ唐揚げ」。
名前だけじゃ伝わらない、このインパクト。
ピリ辛のあんかけ野菜炒めの下に、どーんと7個の大ぶり唐揚げ。豆板醤が効いたあんが、カリッと揚がった衣にとろりと絡む。
辛さ、甘さ、肉のジューシーさ、カリッとした食感──口の中で、それぞれが自由に踊っているみたいだ。
ボリュームもすごい。「今日はこれだけでええか」って、思える一皿。
あの頃のあだ名が、看板になった
「なんでポパイって名前なんですか?」
と聞いたら、大将がちょっと照れくさそうに笑った。
「それは……俺のことや」
若い頃、がっしりした体格で“ポパイ”と呼ばれていた大将。
店を始めるとき、何気ない会話のなかで誰かが言った。
「ポパイでええやん」──それで決まった。
「○○飯店」みたいな名前じゃないのが、かえっていい。
「ポパイの前集合な」って言われると、なんかうれしい。そう言って笑う大将が、少しだけ誇らしげだった。
味の奥に、記憶がある
この店の味は、点数やランキングでは測れない。
いつものチャーハン。帰り道の餃子。疲れた日のレバにら。
そういう記憶が、じわじわと積み重なって「好き」になる。
友だちと笑いながら唐揚げをつついた日。
一人で水餃子をゆっくり噛みしめた夜。
どれも、その人だけの“味の記憶”だ。
「布施で中華といえば?」と聞かれたら、きっとこう答える。
「やっぱり、ポパイやで」