布施商店街の外れ、府道24号線沿い。ふと通り過ぎてしまいそうなその店に、しずかに灯る火がある。店名は「法善寺 別家」。八尾の名店で20年の修行を経た店主が、ひとりで切り盛りする串揚げの店だ。一本ずつ揚げられた串が、目の前のカウンターにそっと置かれていく。大阪らしい“串カツ”とはまた少しちがう、丁寧でしずかな時間。だけど店主は言う。「串カツだろうが串揚げだろうが、どっちでもいいんです。おいしく食べてもらえたら、それがいちばんですから」
住所 | 大阪府東大阪市足代3-3-10GoogleMap |
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電話番号 | 06-6724-5567 |
営業時間 | 11:30~14:00(平日のみ)、17:00~21:00 |
定休日 | 水曜日 |
喫煙可否 | 禁煙(店内に喫煙ブース有) |
名は「法善寺 別家」。町の端に灯る串の店
布施商店街のにぎわいを抜けた先。大通りを少し歩いたところに、「法善寺 別家」はひっそりと佇んでいる。
外観は控えめで、通り慣れていても見過ごしてしまいそうなほど。
扉を開けると、6席のカウンターに、奥には4人がけのテーブルが2卓。過剰な装飾も、気取った空気もないけれど、油の香りと、しんとした熱が、空間を満たしている。
店主は、八尾の名店「法善寺」で20年、串の道を歩んできた人。その技術と心意気を、この小さな店に込めている。
串揚げ(串カツ)、と聞くと賑やかなイメージが先行するけれど、「法善寺 別家」で出されるそれは、むしろ静けさの中にある。まるで茶席のように、一本ずつ、呼吸を合わせるように揚げていく。
目の前に置かれるその一串が、少しだけ背筋を伸ばさせる。
「串カツでも、串揚げでも。どっちでもいいんです」
店の看板には「串揚げ」とある。けれど、大阪では“串カツ”の方が馴染みがある言葉かもしれない。その違いを問うと、店主はにこやかにこう答えた。
「大きな違いは、実はないんですよ。ただ、お客さんがどんな言葉で呼んでも、どっちでもいい。大事なのは、目の前の串を美味しいって思ってもらえるかどうか。それだけです」
肩肘張らないその姿勢が、串の一本一本にも表れている。派手すぎず、けれど丁寧。油の温度、素材の厚み、衣の具合——。すべてが少しずつ、食べる人に寄り添ってくれる。
最初の一串までに、少しだけ整える
食事のはじまりには、冷奴と野菜スティック。
まずはこれでお腹と気持ちの準備を整える。
そして、揚げたての串がカウンターに置かれたら、いよいよ本番だ。
串はどれも、目の前で丁寧に揚げられるライブスタイル。揚がった順に一つずつ供されていくから、自分のペースで楽しめる。お腹が満たされたら、「ストップ」と声をかけるだけ。
この“おまかせ”の距離感も、心地よい。出されたものをそのまま味わうという潔さが、妙に嬉しい。
3つの味が支える、揚げたての余韻
串に添えるのは、3つの味。自家製ソース、ポン酢、そして白ごま入りの塩。
なかでもソースは、店主が独自に配合したもの。甘みを感じる味わいに、隠し味としてほんの少しカレー粉を加えている。「子どもでも美味しく食べられるように」と、優しい気遣いが隠れている。
塩には、白ごまが混ざっている。ただの塩では出せない、ふわりとした香ばしさが口の中に広がる。
どれも主張しすぎず、けれど確かに、串の味を引き立ててくれる存在たちだ。
意外性のあるマリアージュ。ワインとともに
「法善寺 別家」のもう一つの魅力は、その奥行き。一見、和の空間に見える店内には、実はワインセラーがひっそりと備えられている。
串揚げにワイン?と驚くかもしれない。けれど、一口食べてみると納得する。衣の香ばしさと、油のまろやかさ。そこにワインの酸味や果実味が加わると、驚くほど美しく調和するのだ。
赤、白、スパークリング。料理に合わせた提案もしてくれるから、普段あまりワインを飲まない人でも、安心して楽しめる。「上質な時間」という言葉が、決して大げさじゃない空間が、ここにはある。
ふらっとでも、家族でも。
この店には、お子さん連れのご家族もよく訪れる。店主自身が、「ぜひ連れてきてほしい」と語るほどだ。
揚げたての串に、ちょっと甘めのソース。子どもたちにも、安心して食べさせられる味が、ここにはある。6席のカウンターとは別に、テーブル席が2つ用意されているのも、そのためだろう。
ゆっくりと食べて、笑って、しゃべって。串揚げが家族の記憶に残るような、そんな夜になる。
“大阪らしさ”の、もう一つのかたち
「法善寺 別家」は、ガヤガヤした大阪の串カツとはまた違う。だけど、それも大阪の、もう一つのかたちだと思う。
静けさの中にある、誠実さ。揚げる音に、心を預けるような時間。ワインと串揚げの不思議な調和。そして、「呼び方なんてどっちでもええんですわ」と笑う店主の柔らかさ。
食べることが、少しだけ特別な行為になる。そんな夜を求めているなら、布施の外れに、灯りを見つけに行ってみてほしい。