パン屋の前を通ったときにふわっと香る、焼きたてのあの匂い。
なんだか懐かしくて、でもちゃんと新しくて。
その理由は、100年という時間を丁寧に紡いできたから、なのかもしれません。
布施のまちにある「金太郎パン」は、大正時代から続く老舗のベーカリー。
地域の人たちに愛されながら、世代を超えて、パンと一緒に思い出を焼き上げてきました。
ぎゅっと人とパンが詰まった店内
布施の商店街を歩いていると、ふわっとパンの焼ける甘い香り。
「金太郎パン」はその先で、今日もたくさんの人を迎えている。
店に一歩入れば、ぎっしり並んだパンの山と、すれ違うのも一苦労なほどのにぎわい。
クリームパン、カレーパン、サンドイッチに菓子パン。
種類の多さに目移りして、何度もトレーに手を伸ばしてしまう。
でも、そんな光景が日常のようにあるのは、100年という歴史がこのまちで確かに積み上げられてきた証かもしれない。
自家製あんこが主役のあんぱん
金太郎パンの代名詞ともいえるのが、素朴でまっすぐなあんぱん。
ほどよくしっとり、甘さ控えめの粒あんは、毎日お店で炊き上げている。
使うのは、シンプルに砂糖と小豆、1:1の黄金比。
でも、それだけじゃ終わらない。
日ごとの気温や湿度に合わせて微調整を重ねて、いつもの味をきっちり守る。
この“当たり前のこだわり”こそが、金太郎パンのやさしさだ。
あんフライ、塩あんバターパン、あん食パン……。
アレンジされた“あんパンシリーズ”も魅力的だけれど、やっぱり最初は、スタンダードなあんぱんをひとつ。
口に入れた瞬間、静かに、でも確かに「あ、これ」と思えるはず。
ブリオッシュに込められたはじまりの味
創業当初から焼かれているというブリオッシュも、金太郎パンの名物。
まだ日本で“ブリオッシュ”という名前が知られていなかった時代に、先代が模倣しながら生み出した一品だという。
さっくり軽い表面に、しっとり優しい中身。
口に運べば、ふんわりと広がるバターの香り。
何気ないようでいて、ずっと忘れられないような味。
「温めると、もっとおいしいですよ」
と教えてくれたスタッフの笑顔にも、元気をもらえる。
名前に込められた、子どもたちへの願い
“金太郎パン”という名前には、想いがある。
「この町の子どもたちに、金太郎みたいに元気に育ってほしい」
そんな願いを込めて、初代が名付けたという。
パンを食べて、身体も心もふっくら元気になるように。
その願いは100年経った今でも、お店のスタッフやレシピにしっかりと受け継がれている。
店内のポップ、レジ袋、パッケージ……気づけば、あちこちに金太郎がいる。
外観にも、ひっそり、でも堂々と。
数えてみると、ちょっとした宝探しみたいで楽しい。
SEKAI HOTELとの小さなコラボ
実は、金太郎パンにはイートインスペースがない。
でも、「せっかくなら、焼きたての味を楽しんでほしい」——そんな想いがつながってSEKAI HOTEL Fuseのカフェスペースで食べられるようになった。
パンを買って、ワンドリンクを注文すれば、SEKAI HOTEL FuseでそのままイートインOK。
オーブンで温め直せるので、まるで店頭で焼きあがったばかりの味がよみがえる。
旅の途中で食べるもよし、明日の朝ごはんにするもよし。
パンが暮らしのそばにあるって、やっぱりちょっといい。
変わらないけど、新しくなる場所
100年続いたお店って、なんだか重たそうに聞こえるけど——
金太郎パンはそんな空気を全然感じさせない。
ずっとそこにあるのに、毎日新鮮で、楽しくて、やさしい。
子どもも、大人も、おばあちゃんも。
パンを手に取る人たちの表情が、なんだか似てくるのは不思議なことじゃないのかもしれない。
焼きたてのパンの匂いと、あちこちにいる金太郎に誘われて、今日もまた誰かがふらりと立ち寄る。
この町で100年。これからも、きっとその先も。