FEATURED SPOT おすすめスポット紹介
布施のおすすめスポット

肉を焼く音に、心がほどける夜。【肉匠 甚|すき焼き】

大阪といえば、粉もん。
でも、あの鉄鍋でじゅっと焼かれる肉の音も、大阪の音なのかもしれない。
布施のまちで70年以上、肉と向き合ってきた老舗「やまじん」。

その肉屋が営むお食事処「甚(じん)」では、ちゃんとした日にも、ふだんの夜にも似合うすき焼きが食べられる。
観光の“グルメ”じゃない、生活に寄り添う一膳。
夜の街を歩きながら、そんなごちそうに会いに行ってみる。

スポット情報
肉匠 甚
住所 大阪府東大阪市足代1-16-24GoogleMap
電話番号 06-6721-2911
営業時間 17:00~22::00
定休日 木曜日

裏路地に灯る、知る人ぞ知る暖簾

布施駅から続く商店街。にぎやかな通りを抜けて、ふと路地へ折れる。

提灯も大きな看板もないけれど、暖簾の向こうから、じわりと香ばしい匂いが漂ってくる。

ここ「甚(じん)」は、昭和28年創業の老舗肉屋「やまじん」が営むお食事処。

地元ではちょっと“いい日”に選ばれる場所だ。法事や家族の集まり、親しい誰かとの再会の夜。そんなときに、ふと思い出される店。

カウンターには10席。目の前では、大将の手捌きが静かに舞う。奥には、10名ほど入れる個室がひとつ。

かしこまりすぎず、だけど背筋は少し伸びる、そんなちょうどいい空気が流れている。

主役は、霜降りの「すき焼き」

「甚」に来たら、やっぱり頼みたいのは「すき焼きコース(4,000円)」。大きな皿に、艶やかな霜降り牛。赤身と脂のグラデーションが、もうご馳走そのものだ。

鍋の前に立つのは、自分自身。肉を焼くのも、割下を注ぐのも、お客の手で。もちろん、困ったときは女将さんがそっと寄り添ってくれるけれど、基本は“セルフ”のスタイル。

気の置けない人と、好きな順番で、好きなペースで。そんな自由さが、この店にはちゃんと用意されている。

割下で味が決まるスタイルなのも、「誰が焼いても、ちゃんとおいしくなるように」という想いから。

口に入れた瞬間、甘辛のたれと脂の旨みがふわっと溶けて、思わず目を閉じてしまう。

すき焼きって、こんなにも静かに人を幸せにできるのかと、改めて思わされる。

肉の町・大阪の、もうひとつの顔

大阪と聞いて思い浮かべるのは、たこ焼き? お好み焼き?

それもいいけど、ほんの少しだけ、足りてない。実は大阪の南部、とくに東大阪は、古くから肉の流通が盛んなエリアだった。

問屋や加工業者が多く、いわば“肉のまち”。そんな土地で、70年以上肉と向き合ってきた「やまじん」は、地元の台所のような存在だ。

すき焼きに使われるのは、脂がきめ細かく、火を入れてもパサつかない部位だけ。

仕入れもカットも、火入れも。「肉屋の目利き」が隅々まで効いているから、食べ終わるころには胃よりも心が満たされている。

「変わらないこと」が、町の誇りになる

「やまじん」がこの町に暖簾を掲げたのは、昭和28年。商店街の人たちの食卓に、ずっと肉を届けてきた。

その中で生まれた「甚」は、ただの食事処ではない。肉を知り尽くした人たちが、“一番おいしい食べ方”を届けたいと思ってつくった場所。

変わり続けるまちで、変わらないものがあるというのは、少し心強い。

誰かの記念日や、久しぶりの再会を、ちゃんと彩ってくれる場所。たとえば自分の子どもが大きくなったとき、「あのすき焼き、また食べに行こう」と言いたくなるような。

旅の夜に、ひとつだけ贅沢を

「大阪に来たら、なに食べよう?」
そう聞かれたら、たこ焼きでも串カツでもなく、「すき焼き」と答えたくなる。

粉もんの香ばしさの向こうに、もうひとつの“大阪の味”がある。

観光地の賑わいから少し離れた布施のまちで、肉を焼く音に耳を澄ます夜。じゅわっと広がる甘辛さと、口の中でとろけるやさしさ。

その一膳に、何度でも恋してしまうかもしれない。

このスポットへのアクセスACCESS