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“飲む”というより“食べる”ミックスジュースではじまる1日【喫茶モア 本店|喫茶店】

イオン・ヴェルノール布施の1階。買い物帰りのカートの音が遠ざかるなか、「喫茶モア」は変わらずそこにある。
大きな冷蔵庫に並ぶ果物たち、猫足テーブル、甘いミックスジュースの香り。昭和と令和のあいだで、時間がすこしゆるむ。
布施の日常に、さりげなく混ざりこんでいく、そんな喫茶店。

スポット情報
喫茶モア イオン店
住所 大阪府東大阪市長堂1-8-37GoogleMap
電話番号 06-6785-6080
営業時間 8:00~20:00
定休日 なし
喫煙可否 禁煙(分煙コーナー有)

色づく冷蔵庫の前から、今日がはじまる

朝、ジュースのために果物を切る音がする。
「喫茶モア」の冷蔵庫は、店の顔みたいなものだ。大きなガラス戸の向こうで、季節のフルーツが静かに主張している。バナナ、メロン、オレンジ、パイン。今日は少しだけマンゴーも。

昭和の面影が残るイオン・ヴェルノール布施の1階。
その一角にあるこの店は、どこか家のリビングのようで、初めて来たのに不思議と落ち着く。
入り口すぐのソファに腰を下ろせば、背中に重みがかかる。そのまま、深呼吸。なんだかいい日になりそうだ。

飲む、というより、食べるに近いジュース

注文が入るたび、果物を手に取る。ジューサーの音が、やけにいいリズムで響く。
喫茶モアのミックスジュースは、ただの「懐かしドリンク」じゃない。果物が熟れきった、まさに“飲みごろ”の状態で使われているから、口にふくんだ瞬間にまるで果物そのものがとけていくみたいだ。

実はこの“ミックスジュース”という飲みもの、大阪の果物屋さんがはじまりだといわれている。
売りものにはできないくらい熟れた果物を捨てずに、おいしく活かせないか。そんな発想から生まれたのが、いろんなフルーツをまぜたこの一杯。
「もったいない」からはじまったやさしさが、今も大阪の喫茶店文化の中で息づいている。

喫茶モアのそれも、果物が主役。オレンジジュースは果汁100%。お好みでシロップももらえるけど、甘さは、果物の力だけでいい。
「甘いのが苦手な人も、ここのは飲めるって言うねん」
そう笑うのは、ずっとここで働いているという女性スタッフ。

濃厚なマンゴージュースや、ヨーグルトと合わせたドリンクも隠れた人気者。
一口目のあとに、思わず誰かを連れてきたくなる味。店内にはその「誰か」がきっといたのだろう。今日は3世代で来ている家族もいた。

モアの跡地に、宿ができた理由

SEKAI HOTELの客室「N.Doors 2」は、実はこの喫茶モアの跡地にある。
今はすぐ近くに場所を移したモアだけれど、あの空間に流れていた“まちの温度”は、ちゃんと宿の中にも残っているような気がする。

たとえば、「N.Doors 2」に泊まった次の日の朝。
部屋を出て、通りを歩き、喫茶モアでジュースを飲む。それだけで、旅というより、暮らしの延長みたいな時間になる。

観光地に向かう途中の“立ち寄り”ではなく、まちの一部として迎え入れられるような感覚。
その感覚こそが、SEKAI HOTELがこの場所に宿を構えた理由かもしれない。

昭和の香りと、今のやさしさ

2025年4月から、喫茶モアは全席禁煙になった。
タバコの煙が似合う店でもあったけれど、今はその香りを、果物とコーヒーの匂いにゆずっている。

店内のソファは、ひとつひとつが微妙に形も色も違っていて、どれも絶妙にレトロ。
猫足のローテーブルに、大理石風の天板。飾られた造花の横には「化粧室」の文字。

今っぽくしようと思ってもできない、あの感じ。モアのインテリアは、“時代”じゃなくて“気配”でできている。

そして、エプロン。
これは市販品じゃない。スタッフひとりずつの好みにあわせて、誰かが縫ったもの。肩紐の幅も、ポケットの位置も、ちょっとずつ違う。

まちに溶ける、モーニングの湯気

朝の布施は、静かだ。商店街のシャッターが開きはじめる頃、モアではもうモーニングが出ている。

トーストにゆで卵、たっぷりのサラダに、やさしいコーヒー。
それが460円。少しの驚きと、たくさんの安心感。

お年寄りのグループ、常連のサラリーマン、そして今日が初めての誰か。
「よう来てくれはったな」と声をかけるスタッフの言葉に、この店の居心地の正体がある気がする。

モアは、ずっと布施にあって、でも日々ちょっとずつ変わっていく。
そういう場所が、まちに一軒あると、なんだか心がほどける。

喫茶モアという“いつもの場所”

特別なことは、なにもない。
けれど、今日ここでジュースを飲んだことが、ふとした拍子に記憶としてよみがえる日がきっと来る。

買い物のついででもいい。散歩の途中でもいい。
布施に来たら、まずモアに寄る。それが、ちょっとした習慣になったら嬉しい。

果物とソファと、布施の時間。
喫茶モアは、これからもずっと、そういう場所であり続ける。

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