高岡の夜に、ひときわ熱い場所がある。
一見すると、その正体は分からない。けれど、一度足を踏み入れたら、胃袋も心もすぐに掴まれてしまう。
手の込んだおばんざいや、「どこから来たが?」で始まる、気取らないひととき。
高岡のまちで半世紀。変わりゆくまちの景色のなかで、「度々平(どどへい)」は変わらない味と変わらない笑い声を守り続けてきた。
今日も誰かが、そんな心ほどける時間を求めて集まっている。
楽しい夜は、地下に。
SEKAI HOTEL Takaokaから歩いて5分。路地の一角に、白く静かに灯る看板がひとつ。
「度々平」――その佇まいはどこか控えめ。だけど、地下の入り口へと続く階段には、やけに人を吸い寄せる引力がある。
階段を降りて扉を開ければ、「いらっしゃい!」の声と、賑やかな笑い声が迎えてくれる。
この場所に人が集う理由が一瞬で分かる、そんな包容力がある。
人が集うのには、“味”がある。
カウンターに並ぶのは、大皿に盛られたおばんざい。その味には、親しみとともに、妥協のないおいしさが宿っている。
自慢の一つだという「豚角煮」は、強火で長時間煮込んでホロホロに。
人気の「かに焼売」には、蟹の身をたっぷりと。ひと口ごとにうまみが広がる。
「おいしいものを食べてもらいたい。ただそれだけ」と話すママ。
若いころからたくさんの店を食べ歩いた経験が、この店の味に生きている。
ジューっと焼ける音、春の風物詩。
春限定の名物「ホタルイカの溶岩焼き」は、ここだけの味。これを目当てに毎年訪れる人も少なくない。
音と香りが食欲をそそる。程よく色づく頃合いを見て、熱々のうちに頬張るのが鉄則。
富山湾の朝どれ“きときと”を。
そして忘れてはいけないのが、お刺身。
口に入れると、とろけるような脂と甘み。
「やっぱり、富山の魚はうまい」
一切れ食べれば、まっすぐにそう思わせてくれる。
素のままの接客が、嬉しい。
「居酒屋でかしこまった接客をしたって、つまんないじゃない」と笑うママ。
これも外せない度々平の魅力である。
常連さんと冗談を交わしたり、県外のお客さんと翌日の観光プランを一緒に考えたり。
誰にでも “素のまま”で接するからこそ、お客さんも気づけば心を開いてしまう。
たまたま隣の席に座る人と仲良くなる、なんていうのも、きっと飾らない接客がかけてくれる魔法。
だから、初めての人でも、おひとり様でも、怖くない。
また、あの笑い声に会いに。
看板が灯っているだけで、なぜかほっとする。
「いらっしゃい」の声も、ママのおばんざいも、隣の誰かの笑い声も、まるで親戚の家に帰ったような、そんな温かさがある。
だから、また帰りたくなる。
まちの景色が変わっても、ここだけはきっと、変わらないでいてくれる場所だから。
扉の奥では、今日もあのときと同じ笑い声が響いている。