布施駅を出てすぐ、ふっと甘い香りが漂ってくる。その先にあるのは、小さな洋菓子店「ルジャンドル 布施店」。
バウムクーヘンにチョコレートケーキ、焼き菓子。ショーケースの前には、今日もそれぞれの理由を持った人たちが足を止める。家族へのおみやげ、自分へのちいさなごほうび。急ぎ足のなかにも、ふと心が緩む瞬間が、ここにはある。
駅とつながる、小さな“いつもどおり”
「ルジャンドル布施店」は、ほぼ“駅の一部”。2022年にできたこの洋菓子店は、地元・東大阪ではおなじみの存在だった。
そんな味が、布施の町にもやってきて、今ではすっかりこの場所の風景になっている。
朝の通勤前、仕事帰りの夜、週末の買い物ついで。ガラス越しに見えるショーケースの前には、いろんな暮らしの一瞬が集まってくる。どれも特別じゃないけど、ちょっと心が動く、そんなタイミングで。
焼きたての丸い記憶
この店の顔ともいえるのが、「以真伝心バームクーヘン」。堂々とした模型が、店の入り口に立っている。
ソフトバウムは、300度の高温で一気に焼き上げた軽やかな食感。ふんわりとした甘さの中に、しっかりとした卵の風味が感じられる。どこか懐かしくて、やさしい。
ハードバウムは対照的に、発酵バターが香る深い味わい。外はかりっと香ばしく、中はしっとりとコクが感じられる。
そして「タイズバウム」。外はさっくり、中にはとろりとした十勝産クリームチーズ。甘すぎないのに、あとを引く。気づけばまた食べたくなっている、そんな魔法にかかっている。
名前に宿る、ビターな余韻
店名である「ルジャンドル」と名付けられたチョコレートケーキ。濃厚なのにくどくなく、ほんのり香るオレンジリキュールが、大人の甘さを運んでくる。甘いだけじゃない、というより、甘さの奥にある深み。そんな印象を残す一切れ。
誰かにあげてもいいけれど、自分のために選ぶのが似合う。たとえば、ちょっと落ち込んだ日の夜とか、静かに一日を終えたいときとか。
「ちょうどいい」の理由
この店のお菓子がいつも新鮮で、食べるたびにおいしい理由は、裏側の仕組みにある。
東大阪・長田の工場から届くのは、その日その時間に必要な分だけ。
無理に作りすぎない。売れる分だけ、丁寧につくる。大量生産じゃ出せない“ちょうどよさ”が、ここにはある。
時間も手間もかかるけれど、それを選ぶ姿勢が、お店の空気にもそのまま表れている。
木のカウンターで、深呼吸
ショーケースのすぐ横には、小さなイートインのスペース。木のカウンターと、やわらかな光を灯すランプ。
ここではロイヤルミルクティーが人気。香りのいい紅茶とミルクを煮出した一杯を飲みながら、ケーキをゆっくり味わう。
その時間が、気持ちをふっと緩めてくれる。
ケーキがある風景
この町では、ケーキは特別な日だけのものじゃない。もっと、生活に近いところにある。
仕事帰りのごほうびに。部活をがんばった子どもへのねぎらいに。誕生日を忘れかけていた同僚への“ごめんね”の代わりに。試験を終えた娘の笑顔に添えるために。
そんな日々のなかに、そっと寄り添っている。気づけば、ケーキと共にやわらかい時間を過ごしている。
今日もまた、布施駅のそばで。甘い香りが、誰かの一日を少しだけあたためているのかもしれない。