商店街の朝は、たいてい静かに始まる。布施のブーランドーリ1番街も例に漏れず、シャッターが上がる音と、パンの焼ける香りが目覚まし代わりになる。その香りをたどると、カフェ・ド・ルワンジュ。
カウンター越しの湯気、トーストに落ちるバター、くゆる煙草。それぞれの朝が交差するこの場所には、日常にふと添えたくなるような“ほめ言葉”が、ちゃんとある
住所 | 大阪府東大阪市長堂1-1-3-3GoogleMap |
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電話番号 | 06-6783-7677 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
定休日 | なし |
喫煙可否 | 喫煙可(禁煙スペース有) |
ルワンジュって、つまり“ほめ言葉”
この喫茶店の名前は、フランス語で“賛辞”や“賞賛”を意味する「Louange(ルワンジュ)」から。
「ほめられる店でありたいんです」と笑うのは、店を切り盛りするマスター。
その言葉どおり、食材選びから一皿の盛りつけまで、丁寧でさりげない心配りが行き届いている。
入り口に並ぶのは、自家焙煎の炭火コーヒー豆。
袋を開けた瞬間の、あの香ばしさだけで気持ちがすっと整うから不思議だ。
一杯ずつハンドドリップされたコーヒーは、酸味とコクのバランスが絶妙で、どこか懐かしい味がする。
コーヒーは“空気”ごと、味わうもの
「コーヒーは器具や水、飲むときの雰囲気にまで影響されるデリケートなものです」
そう語るマスターの言葉のとおり、ここでは素材と抽出のすべてに妥協がない。
豆は焙煎にこだわった厳選品。しかも、豆の雑味を避けるために使われるのは、無漂白のフィルターペーパー。
アイスコーヒーにはネル(布)フィルターを使用し、一杯ずつハンドドリップ。
コーヒーを入れるその手つきからも、時間と香りを大切にしているのが伝わってくる。
BLTは朝のごほうびか、支度か
ルワンジュの名物、ホットBLTサンド。
厚めの山形パンをこんがり焼いて、シャキッとしたレタスとトマト、そして厚切りハムを挟む。
とびきりの贅沢じゃない。だけど、朝にぴったりの“整う感じ”がある。
常連らしきおじさんは、黙々とそれを食べていた。スマホも本もなしに。
BLTとコーヒーだけを前にして、ただ座ってる。
そんな時間の使い方が、すごく羨ましく感じる朝もある。
ベリーベリートーストには、笑いが添えられてる
午後になると、ちょっと甘いものが恋しくなる。
そんなときの“ごほうび”が、ベリーベリートーストだ。
もちっとした厚切りトーストに、甘酸っぱいベリーのソースがとろり。
生クリームの優しさと、パンの香ばしさが重なる感じが、まさに絶妙。
でも、ちょっと笑ってしまうのは、これにサラダがついてくること。
「え?これはおやつでしょ?」なんて言いながら、食べてみると甘じょっぱいバランスがクセになる。
このちょっとした“はにかみ”も、きっと店の魅力の一部なんだろう。
サンドにも、ちょっとした物語がある
ルワンジュのサンドメニューには、ハーブ鶏や自家製たまごフィリング、スクランブルエッグなど、素材へのこだわりが詰まっている。
すべてのサンドは、注文を受けてから調理。つくりおきはしない。
つまりこの一皿には、その人のためだけに用意された時間が流れている。
それはどこか“ごちそう”よりも贅沢で、日常にそっと差し込まれるようなやさしさがある。
煙の向こうに、昔の大阪が見える
今では珍しくなった“喫煙OK”の喫茶店。
ルワンジュでは、きちんと喫煙席と禁煙席が分かれていて、それぞれの時間が穏やかに流れている。
昼前になると、サラリーマンが新聞を片手に煙草をくゆらせ、静かにコーヒーをすする。
その景色は、昭和の大阪に確かにあった“普通の朝”を今に残しているような気がする。
もちろん、煙が苦手な人も安心していい。店の奥には、落ち着いた空間の禁煙スペースもある。
ここでは、カフェオレを片手にゆっくりと本を読む女性の姿。違うリズムが、同じ空間で重なりあっている。
変わる町と、変わらない朝
布施の町も、少しずつ変わってきている。新しいカフェができて、若い人たちの姿も増えてきた。
でも、ルワンジュには変わらないものがある。
それは、トーストの焼ける音だったり、テーブル席に並んだ銀色の灰皿の光だったり。
「ここに来ると、ほっとする」と誰かが言っていたけれど、それはたぶん正しい。
この町の日常に、ちょっとだけ“ほめ言葉”を添えてくれる場所。ルワンジュは、そんな喫茶店だ。