焼き台から立ちのぼる煙に、ふっと木の香りが混じる。
布施・本町通りの商店街の一角に、うなぎの持ち帰り専門店「もりや」はあります。
派手な看板も、大きな暖簾もない。ただ、折箱の中にまごころが詰まっている。
焼きたての蒲焼き。ふっくらしたう巻き。木の折箱に閉じ込めた、ささやかな“ごちそう”。
そのひとつひとつが、暮らしの延長線で、今日も誰かの食卓に届いていきます。
100年越しの、うなぎ屋の血筋

この場所で「もりや」が暖簾を掲げたのは、平成3年。
もともとは近鉄高架下で「穴子・うなぎ・活魚料理」の店を営んでいた。さらに遡れば、祖父母の代にはうなぎの卸売業をしていたという。

気づけば、家業として100年以上。
「長く続いてるだけ」と、店主は笑うけど、炭ではなくガス焼きに変えても、木箱をやめなかった理由を聞くと、そこに積み重ねてきた時間の重みが、ふわりと滲んでくる。
朝開きの活うなぎ、香ばしく地焼きで

使うのは、愛知県の国産活うなぎ。
朝、店でさばいて、蒸さずにそのまま直火で焼く“関西地焼き”が信条。強火のガスで焼き目をつけながら、遠赤外線の火でじんわり火を入れる。皮目はカリッと、身はふっくら。

持ち帰ったら、グリルで少し炙ってみてほしい。立ちのぼる香りに、一瞬で店先に戻ったような気持ちになるから。
プラスチックじゃなく、木箱で届ける

便利で安価な容器が増えても、「もりや」のお弁当は今も木の一合折入り。木は余計な水分を吸ってくれるから、ごはんがべちゃつかない。

「美味しいまま、家で食べてほしいから」。焼き台の火加減だけじゃなく、容器にまで込められたその気持ちが、折箱を開けたときの温もりにつながっている。
あたたかいまま、手渡したくて

お弁当は、予約の時間に合わせて準備を始めている。「少し余裕をもってお時間を伝えていただければ、より出来たてに近い状態でお渡しできます」と、やわらかな笑顔で話してくれた娘さん。

その気配りが、焼き台の火にも、折箱の中にも、そっと込められているような気がした。
ふっくら、じんわり、う巻き

手軽に楽しむなら「う巻き」を。1本から販売しているが、事前にお時間を伝えて予約すれば、焼きたてを受け取ることもできる。
ふんわり焼き上げた玉子の中に、香ばしいうなぎがぎゅっと包まれ、出汁の甘みとタレのコクがじんわり広がる。
おすすめは、タレごはんを添えた“う巻き丼”。お店の方がさりげなく教えてくれた食べ方に、ほっと心がほどけた。
知る人ぞ知る、“肝”の滋味

肝焼きも、知る人ぞ知る逸品だ。焼きたての香り、噛むほどに広がるほのかな苦みと旨み。
「苦手だったのに、『もりや』の肝焼きはするりと食べられた」という声もあるという。
値が上がっても、信念は変えず

うなぎの仕入れ価格は年々上がる。
それでも、「昔からの人に、変わらず食べてもらいたいから」と店主は言う。
焼き場には、いつも娘さんの姿もある。二人三脚で、黙々と焼く姿に、“変わらない味”の裏にある、変わらぬ努力が透けて見えた。

日常の中で、ふと手にする“贅沢”。その折箱の中には、技も、気持ちも、香りも詰まっている。