東大阪・布施の住宅街に、ひっそりと佇む小さなパン屋がある。名前は「米粉パラダイス」。グルテンフリー、だけど気負いはない。アレルギーがあってもなくても、ビーガンでもそうでなくても。
ここに来ると、誰もが“そのままでいい”と思わせてくれる。香ばしい匂いと、やわらかい空気。そのどちらにも、ちゃんと愛がある。
カリッと焼けた、やさしさのかたち。
焼きたてのカレーパンをかじると、外はサクッ、中はしっとり。
揚げてないのに、香りはしっかり立っていて、驚くほどカリッと歯ざわりがいい。
それもそのはず。看板商品の焼きカレーパンは、すべて小麦を使わず、米粉だけでつくられている。
ラインナップは5種。
・やさしい辛さの「スタンダード」
・ホットチリが効いた「スパイシー」
・動物性不使用の「ひよこ豆カレー」
・ツナとポテトの「スリランカカレー」
・黒毛和牛とココナッツが香る「ビーフココナッツ」
どれも一筋縄ではない味わいで、それぞれに“顔”がある。
パンは一つずつシリコンシートで包まれていて、レンジで温め、トースターで焼けば、まるで焼きたてのように戻る。
冷凍保存ができるのも、日常に寄り添っていていい。
焼きたての奥に、まだ知らない顔がある。
カレーパンばかりが注目されがちだけど、実はこの店、パンの種類はもっとずっと多い。
店頭には並ばないけれど、予約限定でバゲットやベーグル、シフォンケーキにあんドーナツまで、米粉を使ったバリエーションが揃っている。
バゲットはパリッと香ばしく、中はもっちり。
ベーグルは小ぶりながら、しっかり噛みごたえがあって、惣菜系の具材にも負けない存在感。
米粉だからこそ出せる独特の質感が、食べるたびに新しい。
営業日は限られているけれど、事前に予約すればできる限り応じてくれる。
「その人の好みに合わせて焼けるなら、うれしいんです」と店主の井上さん。
その言葉の通り、誰かのために焼かれたパンが、この店の奥で静かに息づいている。
パン屋という名の、小さな集まり。
店内は、小さなカウンターと、レジ横に控えめに並ぶパンたち。
でも、そこにはパン屋以上の居心地がある。
「パン教室で出会った米粉に惹かれて、いつの間にか店を持っていました」
そう話す店主・井上さんは、もともとサラリーマンだった。
でもこの店では、そんな経歴よりも「ここにいること」が何より自然に見える。
ふらっと立ち寄った人が、ちょっと店主と話して帰っていく。
ドリンク片手に、静かにパンを頬張る人もいる。
ここには、“パンを買う”以外の時間が流れている気がする。
米粉の、その先にある気持ち。
「おいしいから続けているんです」と笑う井上さん。
そう笑う井上さんの背中には、でも確かな思想がある。
アレルギーを持つ子どもでも、同じ食卓を囲めること。小麦中心だった食文化の中で、米という選択肢を広げること。
大きな声では語られないけれど、食材の背景や未来に、ささやかに手を添えているようなパンたち。
その優しさが、食べる側の“気持ち”にも、ちゃんと届いてくる。
今日の途中に、ちょっと寄り道
米粉パラダイスのパンは、繊細なのに気取っていない。
素材の特性を活かして、でもそれに縛られすぎず、日常にするりと溶け込んでくる。
あたたかくて、やさしくて、ほんのり力強い。
暮らしの延長線に、ひっそりと存在するこの場所が、今日も誰かを迎えている。
あの青い扉の奥にあるのは、変わらない温度と、人の気配。
気が向いたときにふらっと寄って、ふっと満たされる──そんな店があるということが、ただ嬉しい。