「とりあえず、ばくてん行こか」って声が、布施の夜にはよく似合う。
地鶏と魚と、季節の野菜。きちんと選ばれ、きちんと手をかけられたものが、気取らずそこにある。割烹仕込みの腕前で、今日の一品を仕立ててくれるこの店には、ほどよい緊張感と、静かな信頼がある。
暖簾をくぐれば、ちょっとだけ背筋がのびて、でもちゃんと肩の力が抜ける。布施でごはんに迷ったら、たぶん、ここです。
住所 | 大阪府東大阪市足代1-14-8GoogleMap |
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電話番号 | 050-5488-1663 |
営業時間 | 12:00~14:00、17:30~23:00(L.O. 22:30) |
定休日 | 月曜日 |
喫煙可否 | 禁煙 |
“ばくてん行こか”が、合言葉みたいに
ちょっとお腹がすいたときも、ちゃんと食べたい夜も。誰かの歓送迎会や、ひさしぶりの同窓会でも。布施の人たちが口をそろえて名前を出すのが、「地どりと魚菜 ばくてん」。
カウンター、掘りごたつ、テーブル席。何人で来てもフィットする器のような空間に、いつの間にか落ち着いてしまう。会社員も、地元の組合の人たちも、「あそこ行っといたら間違いない」と言う。そんな安心感が、ここにはある。
炭の香りと、やさしさの裏ごし
厨房に立つのは、ちょっと強面に見える店主。でもそれは、食べものに向き合うときの真剣さゆえ。北新地の割烹で長く修行を積み、一流ホテルの現場も経験してきた、正真正銘の“料理人”だ。
一品一品を雑に出すようなことはしない。魚の下処理も、焼き物の火入れも、盛りつけも、見ていればわかる。割烹で培われた丁寧な所作が、日々の料理のひとつひとつに息づいている。
会計のとき、「ありがとうございました」と柔らかく微笑んでくれるその一瞬に、ふっと緊張がほどける。初めてでも、なんとなく“また来たくなる”理由が、そこにある気がする。
そして、席につくとさりげなく手渡される手書きのメニュー表。今日選ばれた魚や野菜が、丁寧な筆致でつづられている。声に出して選ぶたび、ちょっとずつ店主との距離が近づいていく気がして、それがまた心地いい。
昼は箱ランチ、布施の秘密
火・水・金の昼だけ現れる“箱ランチ”は、ちょっとした名物になっている。三種のおかずが、きちんと仕込まれて並ぶ木箱の中に、お昼のやさしい光が差し込むような時間。
このランチが1,000円ぽっきりというのも、布施らしい。肩ひじ張らず、ちゃんと満たされる。気づけばリピーターが増え、昼どきはにぎやかに。食通の間では「予約しとかな間に合わんで」と噂されるほど。
親鳥たたきと、パスタの余白
夜に訪れたら、まずは「宮崎地鶏の親鳥たたき」を。豪快に炙られた表面から、炭の香りがふわりと鼻をくすぐる。コリっとした歯ごたえに、薬味を添えて。これはもう、ひと口目から“うまい”が決まってる。
それから、刺身や焼き物。ときにカルパッチョのような創作系も混ざってきて、店主の引き出しの多さに驚かされる。伝統の型を知っているからこそできる、型をくずした自由な一皿たち。割烹の経験が、今ここで、のびのびと生かされている。
そして、ひそかに人気なのが「パスタ」。ちょっと意外だけど、注文すると「少しお時間いただきますね」と声をかけられる。その一言が、なんだか心地いい。待つ時間すらごちそうになる。割烹の火口で作られるパスタは、ちょっと邪道で、でもすごく正解。
日本酒は、ここでもう一杯を誘う
料理に合わせて揃えられた日本酒たちも、まるでこの店の空気を知っているような顔ぶれ。冷やでも燗でも、料理との相性はおまかせで。痒いところに手が届くって、こういうことを言うんだろうなと思う。
遅れて来た友人が「やっぱ、ばくてん落ち着くなあ」と笑う。そうやって、また誰かが誰かを連れてくる。お店って、味だけじゃなくて、そんな循環でできてるのかもしれない。
変わらない“定番”という強さ
ばくてんに初めて来た夜のことを、なんとなく覚えている。熱々の焼き物に舌をやけどしたこと、炭の匂いが服に移ったこと、思ったより話し込んで終電を逃したこと。
最後に頼んだパスタが思いのほか盛りだくさんで、気づけば野球部員みたいにもりもり食べていた。出汁や具材の組み立てに、和の技がしっかりと根を張っているから、イタリアンの顔をしていても、芯がぶれない。
割烹の厨房から出てきたとは思えないくらいの力強さで、それがまた嬉しかった。
そういうのを、いちいち覚えてる店って、たぶんそんなに多くない。でもばくてんは、なぜかそうなる。うまいだけじゃない、何かをくれる場所。
布施の夜を知っている大人たちが、「とりあえずここ」と選ぶのには、ちゃんと理由がある。その理由は、食べてみたらわかるかもしれないし、数回目でようやく気づくものかもしれない。
たぶん、それでいい。