たとえば、旅の途中。にぎやかな商店街を抜けたその先で、ふと足を止める。ちょっと背伸びしたい夜。けれど気取るほどじゃない、そんな夜。
布施の路地裏にひっそり灯る「和創楽家 神楽」は、食べることだけを目的にするには惜しい場所だ。誰かと語らいたい夜も、ひとりで向き合いたい夜も、そっと受けとめてくれる。
“ちゃんとした時間”を過ごすのに、ちょうどいい静けさとぬくもりが、ここにはある。
住所 | 大阪府東大阪市長堂2-2-4GoogleMap |
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電話番号 | 06-6784-2310 |
営業時間 | 11:30~14:00、17:00~22:00 |
定休日 | 月曜日 |
喫煙可否 | 禁煙 |
のれんの奥に、背筋を正すやさしさ
東大阪・布施駅から歩いて数分。商店街の喧騒が背中に遠ざかるころ、白く灯る行灯がひとつ、足元を照らしている。「和創楽家 神楽」。木の扉に手彫りの看板、揺れるのれんの先には、きりっと整った空気が待っていた。
一歩足を踏み入れると、不思議と心が静かになる。カウンター、掘りごたつ、半個室、ソファ席——席の選び方ひとつで、過ごし方まで変わってくる。
“和モダン”と一言でくくるにはもったいない、余白のある美しさと静けさが、この空間には流れている。
声のトーンまで、整っていく
カウンターに腰を下ろす。分厚い一枚板は、どっしりと静かで、でもどこかやわらかい。
隣の人との距離は近すぎず遠すぎず。自然と声が少し落ちて、「今日、どうだった?」なんて、ぽつりと話し出してしまう。
ザワザワしていない。でも、静かすぎることもない。この店の空気は、なんだかちょうどいい。
料理は、言葉よりも誠実に
料理をつくるのは店主・前田さん。和の基本を大切にしながら、少しだけ洋や中のエッセンスを添えてくる。どの皿にも、派手さじゃない“誠実さ”が滲んでいる。
お造りの皿に並ぶのは、マグロ、サーモン、鯛、イカ、イクラ。器の余白までもが計算されたように、美しく、でも気負っていない。
季節の野菜を使った天ぷらは、衣がふわりと軽く、噛むと中にしっかり季節が詰まっている。自家製おぼろ豆腐は、やさしく口に馴染んで、肩肘張らずに“美味しい”を感じさせてくれる。
一軒で、夜を完結させる贅沢
コースでも、アラカルトでも。料理の数は100を超える。迷ったときは、店にゆだねて流れを味わうのもいい。その日の気分で、気ままに選ぶのもいい。
お酒もまた、選択肢は豊かだ。日本酒はもちろんだが、特筆すべきは焼酎の品揃え。なんと50種以上。芋、麦、米、黒糖。香りも、味わいも、温度も、それぞれに違う。
たとえば、超音波熟成でやわらかく仕上げた麦焼酎「円円(まろまろ)」は、するりと喉を抜けていく。芋焼酎「前田利右衛門」は、古風でしっかりとした輪郭。関西では珍しい奄美の黒糖焼酎「里の曙」や「朝日」も揃っていて、選ぶたびに、夜が深くなる。
どれを選んでも、間違いはない。その安心感が、会話に余裕をくれる。
値段以上の“満足”がある夜
布施の中では、少しだけ高いと思うかもしれない。でも、この店で過ごす時間は、決して“高い食事”ではなく、“いい夜”だ。
ちゃんとご飯を食べたい夜。ちゃんと人と向き合いたい夜。ちゃんと、自分を休ませたい夜。その“ちゃんと”に応えてくれるのが、神楽という店なのだと思う。
誰かの「特別」が、そっと息づく
「肩肘張らずに来てもらえる場所。でも、誰かの記念日にもなれるように」店主・前田さんはそう語る。その言葉の通り、この店は日常の中にそっと“ハレ”を混ぜてくれる。
一人でふらりと。誰かとしっかり。どちらでも、ここに集えば、自然と笑みがこぼれる。派手じゃなくて、ちゃんとした夜。その先に、こんな店があってよかったと思える。