「布施のまだ“バレてない”感が好き」音×スパイス×こどもの笑い声が混じる夜。【KezaKeza|エスニック・バー】
布施駅から少し歩いたみやこまち通り。子どもの声が遠ざかり、陽が落ちたころ、そっと灯る一軒のあかり。「KezaKeza(食酒座)」は、多国籍の香りと、音楽と、笑い声がやわらかく混ざりあう場所。
月に一度のライブ。壁に揺れる短冊メニュー。禁煙の店内では、こどもと一緒にグラスを重ねてもいい。気取らず、でもちょっと特別な夜が、誰にでもひらかれている。
布施のまちは、まだ“バレてない”
布施駅から歩いてすぐ、みやこまち通りの一角に、小さな灯りがともる。少し色褪せた商店街に、そっと馴染むように佇む「KezaKeza(食酒座)」だ。
店主は“さなっぺ”さん。なんば・味園ビルをはじめ、ベトナム料理店や調味料メーカーでのレシピ開発など、食の現場を渡り歩いてきた。
布施に暮らして10年。「このまちは、まだ“バレてない”感じが好きなんですよ」と、少しだけ誇らしげに笑う。
店名には、“食と酒が響きあう”という昔の言葉「食酒(けざけ)」の思いを重ねた。料理は酒を誘い、酒は言葉をほどく。気取らず、でも確かにうまい。そんな一献を、ここでゆっくりと。
短冊から香る、アジアの風
KezaKezaに来たら、まず壁を見る。その日のメニューは、短冊に手書きで吊るされている。仕入れや気分で少しずつ変わるのも、また楽しい。
名物は、水餃子。ふっくらした皮の中に旨みがぎゅっと詰まり、レモングラス香る特製ダレがとろり。パクチーがふわりと香り、口の中でアジアの風がひらく。
「もともとはカオマンガイのソースだったんですけど、餃子に合うかなって」そんな言葉からも、肩ひじ張らない遊び心が伝わってくる。
揚げ春巻きも忘れられない。魚のすり身と里芋を合わせて、サクッと揚げたひと皿。とろりとした甘みと香ばしさが、静かにあとを引く。
グラスの中に、故郷の香り
ドリンクにも、さなっぺさんのルーツがそっと息づく。おすすめは、生すだち酎ハイ。徳島県産のすだちを目の前でぎゅっと搾る一杯だ。柑橘の爽やかさが、からだの奥にすっとしみてくる。
もうひとつは、実山椒を漬け込んだジン。ピリッとした刺激のあとに広がる清涼感が、料理との相性も抜群。香りで飲むお酒、という感じがする。
音があれば、人が集まる
月に一度、KezaKezaは小さなライブハウスになる。ミュージシャンや仲間が集まり、音を奏で、グラスを交わし、夜が深まっていく。
「まちの外から来る人が多いんです」と、さなっぺさん。でも不思議と、この店に何度か通ううちに、みんな布施の風景になじんでいく。ふらりと来て、誰かを連れて、またふらりと帰る。そんな連なりが、静かにまちと混ざっていく。
子どもと乾杯できる店
KezaKezaは、あえての禁煙。「子どもと一緒に飲める場所をつくりたくて」――そんな思いからはじまった。
大人がひと息つけて、子どもも気兼ねなく過ごせる空気。ひとりでも、家族でも、誰でもふらっと入れるように。
扉の奥にあるのは、やさしく包まれるような夜。それぞれの「おかえり」が、そっと待っている。
布施に、ひとつ風が吹く
KezaKezaは、まだはじまったばかりの店だ。この場所に灯りがともって、まだ3年ほど(2025年現在)。
それでももう、外から誰かを連れてきてしまう不思議な引力がある。さなっぺさん自身が、布施というまちに惹かれて、ふらりと根を下ろしたように。
ここに集まってくる人たちが、少しずつこのまちに馴染んでいく。その過程を、無理なく、ゆっくり見守るような空気が、この店にはある。
KezaKezaが、布施のまちにそっと溶け込んでいく。その日々の積み重ねが、きっとこの場所の物語になっていくんだと思う。