湯気と笑い声。布施にブランドーリある「なんくる」は、沖縄と大阪がふわりと混ざったような、小さなお好み焼き屋。暖簾をくぐれば、おかんの台所みたいなぬくもりが待っている。
焼ける音に引き寄せられ、箸をすすめているうちに、なんだか気持ちまでほぐれてくる。急ぎ足のまちに、ぽつんとあるやわらかい場所。あの音が聞こえるかぎり、きっとこの日常はつづいていく。
| 住所 | 大阪府東大阪市足代北2-14-20GoogleMap |
|---|---|
| 電話番号 | 06-4309-5177 |
| 営業時間 | 11:30~22:00 |
| 定休日 | 木曜日 |
| 喫煙可否 | 禁煙(喫煙スペース有) |
“沖縄っぽくて、どこまでも大阪”という混ざり方

布施駅から歩いて数分、ふと視界に入るのは赤いオリオンビールの提灯と、「お好み焼き なんくる」の暖簾。その組み合わせに、一瞬「ん?」となる。でも気づけば、鉄板からのいい匂いにつられて、足が止まっている。
店を切り盛りするのは、“おかん”こと中谷さん。大声で呼び込むでもなく、にぎやかな看板があるでもない。けれどその背中からは、「よう来たな」という声が静かに伝わってくる気がする。

壁には南国風の壁紙。棚にはモンパチのCD。「沖縄出身ですか?」と聞くと、「ちゃうちゃう、東大阪! モンパチが好きなだけ(笑)」との返事。なるほど、そういう“沖縄”だったのかと、ひとつ膝を打つ。
無理やりじゃない、自然な混ざり方。それがこの店の空気そのものだ。
焼きそばは5分。まちのリズムと、台所の感覚

「布施の人は、忙しいからね。待たせられへんのよ」
そう言って中谷さんは、エビとイカを鉄板に投げ入れる。あっという間に立ちのぼる湯気。注文から5分もかからず出てくる焼きそばは、もちもちの太麺に、ぷりっとした魚介がごろごろ。 お店で配合しているという、甘めのソースが香ばしく絡んで、箸が止まらない。

料理ができあがると、「熱いうちにどうぞ」と笑顔でテーブルまで運んできてくれる。その手際のよさとやさしさに、ちょっと肩の力が抜ける。

厨房の奥から声だけが聞こえるような店も多いけれど、「なんくる」ではちゃんと“目の前”に料理と人が届く。鉄板の熱気といっしょに、手渡されるような感覚。
ビールのあてになる、お好み焼き

この店のお好み焼きは、ちょっと薄めで、山芋入りのふわっととろけるタイプ。どちらかといえば、ごはんというより、ビールのあて。メニューにあるハラミは、香ばしさとジューシーさのバランスが絶妙で、ついついオリオンビールをもう一本、頼んでしまう。

メニューは豊富で、鉄板焼き・炒め物・一品料理まで並ぶ。
どれも“なんとなく見たことある”のに、“なぜかここがいちばん美味しい”という味ばかり。常連客は、何も言わずに「いつもの」を注文するけれど、その“いつも”がどんなに特別か、食べてみるとよくわかる。
家ではできない、でもどこか懐かしい味

なかでも人気なのが「すじそばめし」。
とろとろに煮込まれたすじ肉と、ごはんと焼きそば麺。甘辛ソースと鉄板の香ばしさが絶妙で、コクがありながらもくどくない。家でも作れそうなのに、なぜか真似できない。火加減、タイミング、ソースの塩梅——その全部が、家庭の味ではなく、“おかんの店の味”として完成されている。
「なんでやろな、また食べたなるねん」そう言って笑う常連さんの横顔に、深くうなずきたくなる。
バスケとごはんと、成長のにおい

壁一面に飾られたサイン色紙。よく見ると、そこにも“おかん”の物語がにじんでいる。
実は中谷さんの双子の息子さんは、二人ともプロのバスケットボール選手。中でも衿夢さんは、奈良のチームに所属しており、今でも仲間たちと一緒に店に立ち寄ることが多いという。

「よう食べるからね。元気な子には、もりもり食べさせなあかん」
そんな一言に、親としてのまなざしと、この店の根っこにある“育てる台所”としてのあたたかさが見える。プロ選手御用達の食堂——そんな看板も、悪くないかもしれない。
音のする場所に、人が帰ってくる

ジュウッという音と、立ちのぼる湯気。
鉄板の前に立つ中谷さんの姿を見ると、今日もこのまちの時間が静かに動き出している気がする。変わらない音とにおいがそこにあって、それだけで安心できるのだ。

「なんくる」は日々の途中で、ふと立ち寄りたくなる場所。しゃべらなくても、ちゃんと安心できる、そんな距離感。
常連らしいお客さんがメニューも開かず注文する様子からも、布施という町の暮らしが、そっと映っているような気がした。