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布施のおすすめスポット

旅で惚れた味が、今夜の一皿になる。【しっぽ亭・しっぽ亭2|居酒屋】

布施のあじろ横丁。夜になると、細い路地にぽつぽつと灯りがともりはじめる。その一角、「しっぽ亭」から立ちのぼる湯気には、旅の記憶と暮らしの匂いが混ざっている。

テールスープ、赤味噌のおでん、チキン南蛮、黒板に並ぶ旬の魚。日本各地をめぐって出会った「これはうまい」と思えるものだけが、今日の皿にのる。

知らない人と肩が触れるようなカウンターで、ふっと笑い合う夜がある。ひとりでも、ふたりでも。しっぽ亭は、今日も誰かの夜をあたためている。

スポット情報
しっぽ亭・しっぽ亭2
住所 大阪府東大阪市足代新町9-11 あじろ横丁GoogleMap
営業時間 18:00~(水木金のみ 12:00~14:00)
定休日
喫煙可否 喫煙可能

路地に灯る、旅の台所

布施駅から北へ。あじろ横丁の奥、入り組んだ細い路地に「しっぽ亭」はある。昭和の名残と今の暮らしが折り重なるこの一角に、「しっぽ亭2」もオープン。もとは立ち飲みだけだったが、人気を集めるうちに椅子とテーブルが増え、人が集まる空間へと育っていった。

でも、広くなっても、流行りに流されることはない。料理も空気も、ちゃんと“しっぽ亭”のままだ。

店主の岡山さんは、もともと飲食チェーンの新店開発を担当していた人。全国を飛び回っては、街を歩き、居酒屋にふらっと入り、その土地の味を身体で覚えてきた。しっぽ亭の料理には、その旅の記憶がひっそりと息づいている。

名古屋で出会った八丁味噌も、そのひとつ。牛すじとこんにゃくをコトコト煮込んだどて煮は、濃厚なのに重くない。酒がすすみ、気持ちがゆるむ。そんな味だ。

おでんも、赤味噌仕立て。大根や玉子が出汁に染み、ふんわり味噌の香りをまとっている。関西ではあまり見かけないスタイルだけど、この店ではごく自然な風景になっている。

名古屋の味をそのまま持ち込むのではなく、旅の記憶を、この町の夜にそっと溶かすように。その混ざり方が、しっぽ亭のやさしさかもしれない。

テールスープが、「おかえり」と言ってくれる

店名の「しっぽ」は、牛のテールから。骨付きのしっぽ肉を、大鍋でゆっくりと煮込む。白く濁ったスープに、時間のうまみがまるごと溶け込んでいる。

岡山さんにとって、それは韓国にルーツを持つ家庭の味でもある。にんにくを効かせればパンチが出て、ごはんにも麺にも合う。飲んだあとにも、何も食べてない夜にも、すっと沁みる一杯。

料理というより、「ただいま」と声をかけられているような温度がある。

 “立ち飲み”だからこそ、手を抜かない

しっぽ亭のはじまりは、カウンターだけの立ち飲み屋だった。気軽に飲める場所であること。それは最初から大事にしていた。

でも、“切って盛って終わり”のような料理は、出したくなかった。立ち飲みでも、ちゃんとうまいものを。そのための手間は、最初から当然のことだった。

たとえば、なめろう。その日の魚をさばいて、注文が入ると目の前で包丁を入れる。脂ののり、身のかたさ、包丁の感触。叩く音が、静かに厨房のリズムをつくる。

「今日の、ちょっとええの入りました」黒板を眺めていると、そんな声がふっと届く。そのひと言に背中を押されて、つい“今日だけ”を選びたくなる。

ハイボールだけでも10種以上。知っている銘柄も、聞いたことのない名前もある。「クセのあるのが飲みたい」と言えば、すぐに数本提案してくれる。

小さな店だけど、選ぶ楽しさがちゃんとある。

肩が当たっても、また来たくなる

テーブルも椅子も、少し詰まり気味。隣の人と肩が当たる距離感。でも、ここではなぜかそれが嫌じゃない。

「それ、うまそうですね」「どて煮、もう食べました?」そんなやりとりが自然に生まれて、知らない人とふっと笑い合う。

しっぽ亭の厨房を担当するこうさくさんの気配りが、このぎゅうぎゅうの空間に、やさしい余白をつくってくれる。注文が立て込んでも、ふっと目を配り、笑って声をかけてくれる。その穏やかさが、店全体にじんわりと広がっている。

派手な看板も、大きな宣伝もない。でも、このあかりに引き寄せられる夜がある。テールスープ、赤味噌、黒板の一皿。肩の力を抜いて、ハイボールを一杯。店を出るころには、なんだか身体が軽くなっている。

布施の夜に、ぽつんとともる、ふたつの灯り。しっぽ亭は、今日も誰かの夜を、そっと迎えてくれている。

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