布施の夜を歩いていると、古いビルの奥にふっと灯る明かりがある。目印は、店の前に立てられた大きな三角コーン。それが立っている日は、Passが開いている合図だ。
ドアを開けると、遊び心のある店内と、柔らかく笑う店主・もっちさんが迎えてくれる。
ここでは、ちゃんとメニューがあるが、頼んだ料理がその通り出てくるとは限らない。代わりに出てくる一皿は、旬や気分、その夜の空気から生まれたもの。それなのに、布施で飲食を営む人たちも「一番うまい」と太鼓判を押す。
“決まってないことを楽しめる夜”。Passはそんな店だ。
| 住所 | 大阪府東大阪市足代新町15−3 パンションみその 1階奥GoogleMap |
|---|---|
| 電話番号 | 080-7852-6537 |
| 営業時間 | 18:00~26:00 |
| 定休日 | 不定休 (店頭に赤い三角コーンが立っていれば営業中) |
正解は、案内されない場所にある
Passは、初めて来るとほんの少し迷う。通りから少し外れた道の先、古いビルの奥の一室。看板はない。代わりに、入り口横の巨大な三角コーンが「今日はやってるで」と静かに教えてくれる。
入りづらい。でも、入りたい。この矛盾した気持ちがちょっと楽しい。
扉を開けると、外の迷いが嘘みたいにゆるむ。床も壁も照明も、全部店主・もっちさんが自分で手を加えたもの。整いすぎていなくて、だけど雑じゃない。その「ちょうどいい感じ」が、不思議と落ち着く。
“作りものじゃない空間”。それが、最初の料理かもしれない。
メニューがあるのに、メニューでは決まらない
Passにはメニューがある。でも、それは方向性くらいに思っておくといい。
頼んだものが頼んだ通りに出てくる日もあるし、少し違う形で出てくる日もある。こだわりというより、余白。もっちさんの料理は、その日の素材、気温、飲んでいる人の表情、ちょっとした空気の流れで味が変わる。
例えば、パスタ。トマト系かもしれないし、シンプルなオイルかもしれない。ちょっと冒険したい気分なら店主の”おまかせ”パスタがいい。
説明はいらない。ただ、出てきた皿を食べると、「これ、今日の正解やん」と思う。
続いていくために、変えること
Passという名前には、意味がある。以前、この場所でもっちさんは「Cucumbar(キュウカンバー)」というバーをやっていた。その日々を経て。「Pass」にはそんな意味が込められている。
Passには、同じ業界の人も多く訪れる。飲食を仕事にする人が “仕事終わりに自腹で食べたい味”。それって、すごく誠実な評価だと思う。
過去を捨てず、でも止まらない。この店名は、それを静かに物語っている気がする。変わることで、続くこと。Passが今日も開いている理由は、たぶんそこにある。
余白がある夜の居場所
Passは、特別な夜じゃなくていい。誕生日じゃなくていいし、記念日でもなくていい。
ただ、「今日は少しだけいい夜にしたい」そんな気分のときにちょうどいい。
食べ終わったあと、余韻が静かに残る。それは料理の味というより、過ごした時間の心地よさかもしれない。迷いながら辿り着く店。だけど帰り道には、きっと迷いが少し減っている。