えべっさんは、まちの空気の中に

近鉄・布施駅の改札を出てすぐ、大きな恵比寿像が迎えてくれる。鯛を抱えてニッコリ笑う、あの顔。思わず肩の力が抜ける。

大阪では、商売繁盛の神様として親しまれてきた恵比寿様。このまちでは「えべっさん」の愛称で呼ばれ、信仰というより、ほとんど生活の一部みたいに存在している。

静かな祈りの場所、布施戎神社

駅から少し歩いたところにある「布施戎神社」は、昭和29年創建。西宮神社から分祀され、商店街の人々とともに歴史を重ねてきた。

2021年に改修された本殿は、木の香りが残る清らかな空間。華美な装飾はないが、凛とした佇まいに自然と背筋が伸びる。

境内には、日本一の大きさを誇る恵比寿像も。釣竿を持ち、鯛を引き上げる瞬間を切り取ったような姿は迫力がありながらも、どこか親しげだ。

触れて願う、えべっさんのご利益

像に近づくと、膝や腰のあたりだけ色が薄くなっているのに気づく。よく見ると、そこだけ多くの手で撫でられてきた痕跡。

「悪いところを撫でると良くなる」という言い伝えが、このまちには根づいている。言葉にしなくても、みんなが自然とえべっさんに願いを託しているのが伝わってくる。

元気に店先に立つおじいちゃんやおばあちゃんが多いのも、もしかしたらそのおかげかもしれない。

えべっさんとともに生きるまち

神社の外に出ても、えべっさんはそこかしこにいる。「えびす○○」と名のつくお店が商店街にずらりと並び、看板にも愛嬌たっぷりのえべっさんが描かれている。

まちの人たちにとって、えべっさんはただの信仰対象じゃない。店を始めるとき、少し気持ちが揺らいだとき、何気なく立ち寄る場所。決して大げさではないけれど、しっかりと心に根を張っている。

布施で、えべっさんに出会う時間

布施のまちは、派手な観光地ではないけれど、ちゃんと心を動かしてくれる。えべっさんが見守るこのまちには、昔から変わらない祈りの風景がある。

商売繁盛も、健康も、今日を無事に終えることも。誰もがそれぞれの想いを持って、静かに手を合わせる。

そんな時間があるだけで、ちょっと明日がやさしくなる。布施に来たら、ぜひえべっさんに会いに行ってほしい。