「なんでこんなにホッとするんだろう。」って、ひと口で思う。
にんにく醤油がじんわり染みた、あのからあげ。
ただの惣菜じゃなくて、たぶんそれは、家族の記憶とか、町のやさしさとか、そういうものが詰まってるんだと思う。
布施のまんなかにある「Kitchen friend 怜」は、“母の味”をそのまま看板にして始まったお店。
親子で守る味、まちが支える日々。
その物語は、今日も商店街の湯気の向こうにある。
はじまりは、たったひとつの“自信”から
布施駅から歩いて3分。
店前を通ると、ついのぞきこみたくなるショーケースが。。
「Kitchen friend 怜」は、2019年にオープンしたお惣菜屋さん。飲食未経験だった店主・怜司さんが、唯一「これなら勝負できる」と信じていたのが、母・いずみさんのからあげだった。
「どこで食べても、母の味を超えるからあげはなかったんです」
にんにく醤油ベースのタレに、一晩漬け込む。
家で何度も食べてきた、あのしみじみとした味を、まちの人に食べてもらいたかった。
きっかけは、地元のお祭り「土曜夜市」。
屋台で出したからあげが、まさかの大反響。一晩で4回も買いに来てくれたお客さんがいたほど。
「“うまいうまい”って、何度も戻ってきてくれて。あのとき、手応えを感じたんです」
あの日、母の味は家族の中だけのものじゃなくなった。
まちの誰かの“好きな味”になった瞬間だった。
揚げてから量る、やさしさの仕組み
「Kitchen friend 怜」のからあげは、100g 220円。
……って聞くと、まあ普通かも、って思うかもしれない。でも、ここはちょっと違う。
「揚げてから量る」スタイルをとっている。
「油吸うと重くなるのでは…?」って思うけど、実は逆。
生のお肉は、タレや水分を含んで重い。
でも、揚げるとその水分が飛んで、軽くなる。
つまり、“揚げた後で測った方がお得”というわけ。
物価も上がる一方のこのご時世で、ちょっとでも“お客さんに損をさせたくない”という気持ちが、この価格設定に込められている。
布施に育てられて、布施に返す
怜司さんは、生まれも育ちも布施の人。
開業前は、となりの宝くじ売り場に勤めていた。
日々、商店街を歩きながら見ていたのは、少しずつ増えていくシャッターの数だった。
「このままやと、布施が元気なくなるなあと思って」
お店を構える場所は、かつて母・いずみさんが「フードショップいずみ」を営んでいたところ。
体調を崩して閉めてから、30年近く時が経っていた。
でも、味の記憶はちゃんと残っていた。
親子二人三脚で、看板をもう一度掲げた。
まちの顔として再び、からあげの香りが通りを包んでいる。
「ないの?」から始まる、惣菜の数々
自慢はからあげだけじゃない。
「◯◯食べたい」「◯◯作って!」
そんなお客さんの“わがまま”に応えるうちに、自然とレパートリーが増えていった。
常時選べるお惣菜と弁当は、30種類近くに。
ある意味、ここにあるのは“まちの総意”みたいな惣菜たち。
「肉じゃがとか、ほんまに普通の味なんですけど、それがいいんです」
怜司さんの言葉には、少し照れくさそうな誇りが混ざっていた。
弁当にも、物語が詰まってる
「ミックス弁当」は、人気ナンバーワン。
フライや煮物がぎゅっと詰まったボリューム満点のお弁当。
これも元は、お客さんの「いろんな味をちょっとずつ食べたい」という一言から始まった。
作り置き分は、昼前にはほぼ売り切れ。
コンビニとは違う、あたたかさと出来立ての空気が、詰まってる。
母の味は、誰かの元気になる
「さっき食べたのに、また食べたくなる」
そんな声がよく届く、Kitchen friend 怜のからあげ。
その理由は、たぶん味だけじゃない。
それをつくる人の手、受け取る人の顔。
全部が、ここにしかない関係性をつくっている。
母の味が、家の中だけで完結しない世界。
それは、まちの人の元気になって、今日も誰かの一日をちょっとだけ支えている。