布施の夜は、少しゆるくて、ちょっと濃い。
はしご酒の最後にたどり着いたのは、沖縄の風が吹く酒場「垣花家(かきはなけ)」。
スナックの灯りがぽつぽつと並ぶさくら通りに、三線の音と笑い声が混ざって流れてくる。
島言葉が飛び交い、気づけば見知らぬ誰かと「ゆんたく(おしゃべり)」してる。
料理も、お酒も、空気も、なんだか“効く”。
ここは、旅の終わりじゃなくて、夜の続きを始めたくなる場所かもしれない。
布施の夜に、南国の風が吹く。
布施駅の南側、さくら通り。
スナックのネオンに照らされたその小道を歩いていると、不意に三線の音が聞こえてきた。
立ち止まって耳を澄ますと、どうやら笑い声と一緒に店の奥から流れてくる。
その源が「垣花家(かきはなけ)」だ。大阪にある沖縄居酒屋。
それだけでも意外なのに、通りの空気にしれっと溶け込んでいて、初めての人は通り過ぎてしまうかもしれない。
でも、一歩中に足を踏み入れたら、そこはもう別世界。
島のリズムと、人のあたたかさが、夜のテンションにちょうどいい。
沖縄直送の“おいしいわがまま”
料理をつくるのは、宮古島出身のカズさん。
「調味料も麺も、できるだけ沖縄から取り寄せてるんだよ〜」と笑いながら、自慢のタコライスを運んできてくれた。
定番の「沖縄そば」や「ミミガー」「ラフテー」も、どれもきちんと“家庭の味”がする。ひと口食べると、だしの柔らかさと塩気がすっと馴染んで、ビールじゃなくて泡盛が欲しくなる。
お酒が進むと、お腹が空く。そんなときにぴったりなのが「沖丼(おきどん)」。
ラフテー、紅ショウガ、ゴーヤにミミガー…沖縄づくしの具材がごはんの上で踊っている。
こんな豪快で自由な混ぜ丼、ちょっと他では見たことない。
常連がそっと教えてくれる、“おまかせ3種盛り”
「それ、頼んだ方がいいよ」と隣の席から声がかかった。
どうやら“裏メニュー”らしい「おまかせ3種盛り」。
その日は、島らっきょとミミガー、そしてラフテーの盛り合わせだった。
日によって内容は変わるそうで、まさにカズさんの“気まぐれ便”。
それでもどの皿にも共通しているのは、手間がかかってるってことと、ちゃんと酒の隣にある味ってこと。
実はこの裏メニュー、SEKAI HOTEL Fuseのゲスト限定で頼めるんだとか。
なんだかちょっと得した気分になる。
島のゆるさと、大阪のオープンマインド
カウンターで泡盛を飲んでいたら、奥の方から急に三線の音が鳴り響いた。
酔いの回ったカズさんが「ちょっと聞いててね〜」と照れ笑いしながら唄い始める。
店中が拍手と笑いに包まれた。知らない人同士なのに、ここではみんながどこか“顔見知り”みたいだ。
大阪も沖縄も、“見知らぬ人と気軽にしゃべる”という文化がある。
垣花家には、その両方のあたたかさがあるように思う。
気づけば隣の人と飲み交わし、次の店の話をしていた。
愛されるのには、理由がある。
店主のカズさんは、もう15年以上大阪に住んでいるという。
それでも語尾には島の方言がふわっと残っていて、会話のテンポもどこかのんびり。
それがまた、この店の空気をつくっている。
常連さんたちは「またやってるわ〜」と笑いながら、カズさんをいじる。
でも、どこか嬉しそうにそれを受けて、また料理に戻っていく背中は、なんとも言えずかっこいい。“沖縄料理”という看板を掲げているけれど、ここにあるのは料理だけじゃない。
ゆんたく、三線、偶然の出会い。
そして何より、垣花家という空間そのものが、ごちそうみたいなものだ。
布施の夜の最後に
布施のはしご酒、最後の一軒。
笑って飲んで、ちょっと泣いて。
そんな夜にぴったりの場所がここ、「垣花家」。
旅の途中でも、仕事帰りでも、なんでもない日でも。
扉を開けたら、きっと誰かが笑ってる。
たまには、終電を逃してもいいかもしれない。
泡盛がある。三線がある。
そして、あたたかい誰かの声がある。