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布施のおすすめスポット

“二度づけ禁止”じゃない、大阪の夜。【大谷|串カツ】

大阪といえば串カツ。そう答える人は多いけれど、観光地のど真ん中じゃなくて、暮らしの延長にある一軒にこそ、本当の味がある。

東大阪・布施の「大谷」は、そんな店。カウンター10席だけの静かな空間で、寡黙な大将が一本ずつ揚げる串カツは、サクッと軽くて、ふんわり香ばしい。派手じゃないけど、心に残る。

この場所には、日常の中の“ごちそう”がちゃんとある。

スポット情報
串かつ専門店 大谷
住所 大阪府東大阪市長堂1-5-12GoogleMap
電話番号 06-6788-3458
営業時間 18:00~23:00
定休日 なし
喫煙可否 可能

新世界」とは、ちょっとちがう場所で

大阪に来たら、串カツ食べなあかん——。
そんな声を聞いたら、つい思い浮かべるのは新世界のネオン。
でも、大阪に暮らす人は知っている。
本当に旨い串カツは、もっと静かで、ちょっと暗くて、無理に盛り上がらなくてもいいような場所にあるってことを。

布施駅から5分ほど。アーケードを抜けて少し裏に入ったところ。
「大谷」の暖簾をくぐると、そこにあったのは観光よりも“いつもの夜”。

えべっさんが見守る、10席の店

赤地の暖簾には、恵比寿様の笑顔。
店内の壁にも、えべっさん。ここはきっと、えべっさんの隠れ家。

カウンターに腰掛けると、まずは大瓶のエビスと、無造作な野菜スティック。
マヨネーズをちょっとつけてポリポリとかじる。まだ串は来ていないのに、もうなんだか満たされる。

注文は「おまかせ」。

その日いちばん美味しいやつを、いちばん美味しいタイミングで出してくれる。
その空気が、もうすでに美味しい。

サクッと香ばしく、どこか優しい

まず登場したのは、牛カツ。
ひとくち噛んで、すぐにわかる。あ、これ、ただの牛じゃないなって。
あとから聞けば、なんと“ヘレのシャトーブリアン”を使っていたらしい。
それを、あの無骨なカウンターの向こうで、さらっと出してくる。

衣はうすく、ガリッじゃなくてサクッ。
ソースをつけなくても、肉そのものにうま味がしっかりと宿っている。
重さがないのに、しっかり残る満足感。

続いて出てきたのは、エビの紫蘇巻き、カニ爪、ハモの季節串。
どれも、下ごしらえにきっと手間がかかってる。
その仕事ぶりを見せつけるわけでもなく、ただ黙って出してくるのが「大谷」流。

串カツって、もっとジャンクなものだと思ってた。
でも、ここに並ぶ一本一本は、きちんと考えられていて、でも肩の力は抜けてて。
そんな“ちゃんとしてるのに、構えてない”感じが、なんだかちょうどいい。

「サーモンの親子串」もしかり。
タルタルにいくらを散らして、まるで小料理屋の一皿みたいなのに、場所はあくまで串カツ屋。
ソース差しの隣に、さりげなく出てくるのが、なんだか洒落てて愛おしい。

串の向こうで、笑い合う

店内は、カウンターのみ。10席だけ。
大将がひとり、66歳。長年の勘と技で、黙々と串を揚げている。

「おまかせ」でお願いすると、同じタイミングで、同じ一本がそれぞれの席に届く。
ワンオペでやっているからこそ、一度にたくさんは揚げない。
だからこそ、どの串にも、ひと呼吸おいたリズムがある。

それが不思議と、隣の人との距離を近づけてくれる。
見知らぬ誰かと、同じ瞬間に串を手に取り、同じように頬張る。
目が合って、にやっと笑う。「うまいなあ」。それだけで、もう十分だったりする。

この店には、会話のかわりに、ちょうどいい間(ま)がある。
言葉はなくても、ちゃんとわかり合える時間。

戻ってきた手と、黒板のユーモア

聞けば、大将はしばらく腕を痛めて店を離れていたそう。
手術をして、ようやくまたカウンターに戻ってきた。
でも、串を揚げる手さばきは、以前と何も変わっていない。

壁の黒板に目をやると、ちょっとした“いたずら”が。
——スズメバチのかき揚げ
——552のアイス
——金魚のお造り
(うそもあるよ悪しからず)

え?と二度見して、クスッと笑う。
あの真剣な顔の大将が、こういうことをすると思うと、なんだか嬉しくなる。
この店には、技と愛と、少しのユーモアが詰まっている。

布施の夜に、ちょうどいい温度

観光地の喧騒から少し離れた布施で、ふと「大谷」に立ち寄れたなら、それはきっと旅のご褒美。
油の香りも、えべっさんの笑顔も、隣の誰かとの会話も。全部がちょっと優しい。

SEKAI HOTELに泊まった夜。
ただ串をかじって、ビールを飲んで、それだけなのに、「ああ、大阪ってええなあ」と思える。そんな時間がここにはあります。

——“二度づけ禁止”じゃなくても、もう充分、大阪でした。

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