カレーって、ちょっと強い食べものだと思ってた。
香りも味も主張があって、いつも「おいしい!」と叫ぶように食べるものだと思ってた。
でも、布施にある「bloom curry and coffee」で出会ったカレーは、どこかちがった。
ふっと肩の力が抜けるような、でもちゃんと芯があって、そっと日常に寄り添う味だった。
スパイスって、こんなにもやさしいんだ。そんな風に思わせてくれる、ちいさなカレー屋の物語。
住所 | 大阪府東大阪市足代1-1-13GoogleMap |
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電話番号 | 050-3637-0901 |
営業時間 | 9:00~17:00(金のみ/11:30~17:00) |
定休日 | 水曜日・木曜日 |
喫煙可否 | 禁煙 |
布施の路地裏に、いい香りがしてきた。
近鉄・布施駅から徒歩数分。アーケードを抜けて、ふっと静かになる通り沿い。少し見逃してしまいそうな小さな看板に導かれて、「bloom curry and coffee」にたどり着いた。
白を基調とした店内には、やわらかな光が差し込む。BGMは控えめで、カトラリーの音が響くくらいが心地いい。キッチンの奥からは、ふわっと香ばしいスパイスの匂い。時計の針が少しだけゆっくり動き出すような、そんな空間だ。
「初めての人こそ、食べてみてほしいんです」
そう話してくれたのは、店主のあすかさん。学生時代、インドやネパール、スリランカをバックパックひとつで巡った旅の途中で、スパイスの魔法に出会ったという。
スパイスの沼は、やさしい。
スパイスカレーと聞いて、ちょっと身構えてしまう人もいるかもしれない。辛い、クセが強い、大人向け…。でもbloomのカレーは、そんなイメージをふわっと裏切る。
たとえば、週替わりで登場するバターチキンやキーマ、ベジタブルの3種あいがけカレー。
お椀型に盛られた雑穀米を囲むように、それぞれのカレーが色と香りを奏でている。紫キャベツのピクルスが、味に酸味とリズムを加えて、素揚げした根菜はカリッと小さな驚きを残す。仕上げの乾燥ハーブが、まるで花を飾るように皿の上を彩る。
そして、味はとてもまろやか。辛さや癖を抑え、でもスパイスの奥行きはしっかりと感じられる。そのバランスは、4歳の子どもがぺろりと完食するというから驚きだ。
「スパイスの魅力に気づくきっかけになってほしくて」と語るあすかさんのカレーは、まるで入り口に立つ人の手をそっと取ってくれるような、そんなやさしさに満ちている。
アパレルから、カレーへ。美意識は皿の上に。
もともとアパレル業界にいたというあすかさん。その経験は、カレーにもちゃんと活かされている。見た目の美しさに、ふと息を呑む瞬間がある。雑穀米の質感、カレーの色味、ピクルスの配置。皿の中の全てが、計算されすぎず、でもどこかしっくりくる。ラフだけど、洗練されてる。
そんな雰囲気がbloomらしい。
「せっかくお店で食べるなら、家では作れないものを」と、時間と手間を惜しまない。そのこだわりが、ひと皿の説得力につながっている。
スイーツにも、スパイスの余韻を。
bloomでは、ランチタイムのあとにカフェタイムがはじまる。食後にゆっくりと過ごす時間もまた、ここの魅力だ。
おすすめはキャロットケーキ。米粉の生地にシナモン、ナツメグ、カルダモン。中にはにんじんとくるみ、そしてレーズンがぎゅっと詰まっている。上には甘いチーズのフロスティング。ふわりとスパイスが鼻を抜けて、でもくどくない。
それから、インド式ミルクティー「チャイ」。クローブやカルダモンの香りが、まるで深呼吸を誘うような、落ち着いた余韻をくれる。
さらに、自家製のジンジャーエールも。生姜とスパイスを煮詰めたシロップを炭酸で割って、ほんのり甘くて、ちょっと刺激的。スパイスって、カレーだけじゃないんだなと教えてくれる。
大阪の新名物、というより「日常の新しい選択肢」。
スパイスカレーは、大阪ではすっかり定着しつつある存在。ルーを使わず、油控えめで、小麦粉も不使用。だからこそ軽くて、でも味わいは深い。
bloomのカレーを食べていると、スパイスカレーが「ヘルシー」とか「映える」っていう言葉だけでは語りきれないことに気づく。そこにあるのは、誰かの経験と手間と、そして食べる人へのやさしさだ。
観光客の目線じゃなくて、暮らす人の目線で出会うお店。ふらっと寄って、ほっとして、また来たくなる場所。bloomは、そんな「日常の新しい選択肢」として、布施の町に溶け込んでいた。
スパイスって、もっと自由でいいんだと思う。
ちょっと気になるな、と思ったら、それが入口。
気づけばまた、次の週のカレーをチェックしてる。
スパイスの沼は、やさしく、奥深い。ハマったら最後。抜け出せないかも。