鉄板の上でじゅわりと音を立てるソースの匂いに、つい振り返ってしまう。
布施の町で75年、変わらず暖簾を掲げる「よしひろ」は、お好み焼きの原風景みたいな場所だ。
ふわふわの生地に、甘口か辛口かを選べる手作りソース。
けれどそれだけじゃない。
ドイツのソーセージ、フランスのガレット、インドネシアのミーゴレン…
この町の一角で、世界が鉄板の上にのっている。
気取らず、でも確かに心に残る一皿たちを、今日も誰かがほおばっている。
住所 | 大阪府東大阪市足代新町1-1-45GoogleMap |
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電話番号 | 06-6789-7149 |
営業時間 | 11:00~22:00 |
喫煙可否 | 禁煙 |
SEKAI PASS特典 | 1ドリンク無料 |
鉄板の音が、いつもの夜に火を灯す
布施の商店街を歩いていると、不意にソースの匂いが鼻先をかすめた。暖簾をくぐると、そこは「よしひろ」。1948年創業、戦後間もないころからこの町でお好み焼きを焼き続けている。
ランチ時は近くの工場で働く人、放課後の学生、晩ごはんにふらっと寄るおじさん。鉄板を囲んで、気取らない時間が流れている。
「ソースは甘口?辛口?マヨネーズどうする?」
そう尋ねられるのも、なんだかうれしい。ふわっとした生地の上で、香ばしい香りと音が立ち上がるたび、胃袋も心もじわっとほどけていく。
手間ひまの正体は、19種のスパイスとカカオと…
ここ「よしひろ」のお好み焼きを語るうえで欠かせないのが、オリジナルのソースだ。実はこのソース、既製品ではなく店で一から手作りされている。
甘口ソースには、19種類のハーブとスパイスに加え、カカオとアプリコット。一口食べると、ソースの奥から果実のような優しさがのぞく。辛口はもっと大人の顔。21種類のスパイスにハバネロ、オレンジ、赤ワイン…。キリッとした辛さの中に、深いコクがある。
「このソース、売ってないんですか?」
そんな声も多いらしい。けれど、この味はきっと、あの鉄板と空気があってこそ、完成するものなんだと思う。
フランスも、インドネシアも、ここ布施の中に
よしひろのメニューを見ると、不意に「ガレット」の文字が目に入る。
さらに進むと、「ミーゴレン」や「チーズフォンデュ」まであるから驚く。
まるで、鉄板の上に小さな世界旅行が広がっているみたいだ。
その理由は、三代目・吾郎さんの経歴にある。彼はかつて、アメリカでシェフとして9年間働いていた。世界の料理に触れてきたからこそ、「お好み焼き屋」という枠にとらわれず、鉄板料理の楽しさを自由に広げている。
そのすべてが、町の空気と混ざって、どこか懐かしい「よしひろの味」になっている。
今日も、鉄板を囲む声が重なる。
心待ちに暖簾をくぐる。ソースの匂いが袖にうつる。そんな日常の風景の中で、「よしひろ」は今日も営業している。
75年かけて作られた“町の味”は、ただの料理じゃない。誰かの会話の背景だったり、ひと息つく時間だったり。
「また来るわ」
そう言って出ていく誰かの背中を、鉄板の湯気がそっと見送っていた。