にぎやかな商店街から、ほんの少し脇道に入る。
そこには、ずっと変わらずに、誰かの昼ごはんを支えてきた定食屋さんがある。
「日進食堂」は、創業80年を超えるまちの食堂。
素朴だけど手を抜かない、そんな料理と、お母さんと娘さんの温かい声が出迎えてくれる。
旅の途中で訪れても、なんだか懐かしい。
そんな場所が、布施にはちゃんとある。
商店街のにぎわいを背に
布施のまちは、商店街がいくつも交差している。
アーケードの下を、子どもが走っていき、自転車がするりとすり抜ける。
揚げたてのコロッケの匂いや、八百屋の呼び込み。どこを切り取っても、生活の音がする。
日進食堂は、そんな通りから少しだけ外れた静かな路地にある。
看板の下には、手書きのメニューが掲げられていて、すでにいい予感しかない。
木の扉を押して中に入ると、思ったより広々としていて、6つのテーブル席が整然と並ぶ。
「いらっしゃいませ!」という元気な声に迎えられて、なんとなくほっとする。
言葉はなくても、“ここは大丈夫だ”って思える雰囲気って、たしかにある。
変わらない、でも進化している
日進食堂の創業は、80年以上も前。
今はお母さんと娘さん、二人三脚でお店を切り盛りしている。
昔ながらの定食屋らしい落ち着きがありながらも、小鉢の多さにはちょっと驚かされる。
「これもどうぞ」と、お盆に乗ってやってくる小鉢たち。まずは4品。
冷たい煮びたしや、ちょっと甘めのこんにゃく田楽、シャキシャキの和え物……。
どれも娘さんが毎日考えているメニューで、季節に合わせて内容が変わる。
使う野菜は、近所の八百屋さんから仕入れているという。
こんにゃく田楽に使っている味噌は、複数の味噌をブレンドして作るこだわりよう。
甘さ、コク、香ばしさ…いくつもの風味が重なって、口の中でふわっと広がる。
「小鉢って、ちょっとずつ色んな味が楽しめるから嬉しいよね」
そんな気持ちを、形にしたような定食だ。
主役は、だし巻き卵
この日のメインは、だし巻き卵。
ふわっと巻かれた卵を箸で割ると、中からじゅんわり出汁がにじむ。
しっかり味が染みてるのに、口あたりはやさしくて、なんだか落ち着く。
お味噌汁と白ごはんのセットが、これを一層引き立ててくれる。
食べ終わったころに、最後の小鉢——野菜の天ぷらが登場する。
揚げたてで、サクッと音がするほど軽い。
「最後のお楽しみ」って、こういうことかもしれない。
まちの定食屋、まちの居場所
常連さんの中には、ほぼ毎日来るという人もいる。
「メインは同じでも、小鉢が変わるから飽きないのよ」と笑うおばあちゃん。
昼からビールを頼むおじさんもいれば、グラスワインを頼む女性客もいる。
ランチといっても、楽しみ方は人それぞれ。
そういう自由さが、この店の魅力なのかもしれない。
ひとりでも、誰かとでも。
しっかり食べたい日も、ちょっとだけくつろぎたい日も。
この場所は、どんな気分も受け止めてくれる。
100年を目指す、ふたりの物語
小鉢が5品になったのは、娘さんの代からのアイデアだという。
最初は「サービスで」だったのが、いつの間にか「いつもの」に。
そうやって少しずつ変わっていくのに、根っこは変わらない。
「できたら100年、続けたいね」
そう話すふたりの横顔は、どこか似ている。
料理だけじゃなく、時間まで味わわせてくれるような場所。
日進食堂は、これからもこのまちの日常に寄り添いながら、静かに時を重ねていくのだろう。