格子戸の前を、買い物帰りのママチャリが通り過ぎる。土蔵造りの軒先には、雨上がりの湿気を含んだ風がゆっくり溜まっていた。
山町筋は、江戸時代に商家町として栄えた通り。400年経った今も、お惣菜屋や昆布締めの専門店、カフェが、普段の顔で並んでいる。
初めて高岡を訪れる人にとっては、この土地の色や暮らしに触れられる場所。昔からこのまちで暮らす人にとっては、買い物や通勤の途中にある、いつもの通りだ。
ここを歩いていると、高岡の時間の流れ方が少しわかる気がする。
商いの記憶が残る通り
SEKAI HOTEL Takaokaから歩いて9分ほど。「木舟町」の交差点で脇道へ目を向けると、まちの色ががらっと変わる。

山町筋は、高岡城の城下町として開かれた商家町。現代に伝わる高岡漆器や高岡銅器が行き交い、商いの中心地として栄えた。
通りに並ぶのは、1900年の大火の復興のために建てられた土蔵造りの建物。火除けのための黒漆喰の壁や、重たい扉、格子窓が、今も当時の面影を残している。
重要伝統的建造物群保存地区として保存されている場所だけれど、この通りでは今も、買い物や立ち話と、高岡のまちの日常が続いている。
店先には自転車が止まり、銀行帰りらしい人が通りを横切っていく。昼前になると、惣菜屋から煮物の匂いが流れてきた。古い建物の中で、今日の暮らしがそのまま続いている。
暮らしの延長にある店
山町筋には、新しく生まれ変わった店も点在している。
通りを歩いていると、昆布締め料理を看板に掲げる店が目に入る。引き戸を開けると、昆布の香りがほんのり漂い、ランチでは魚だけでなく、肉や野菜の昆布締めも味わえる。

昆布締めは、食材を昆布で挟んで寝かせる富山の郷土料理。かつて北前船によって北海道の昆布が運ばれ、この土地の食文化として根付いていった。
そんな歴史の名残が、今も通りの日常の中に残っている。

山町筋を歩いていると、急いで通り過ぎる人があまりいないことに気づく。店先で少し立ち止まったり、知り合い同士で言葉を交わしたり。
惣菜を選ぶ時間も、カフェでコーヒーを飲む時間も、この通りではいつもの景色になっている。通りに流れているこの穏やかな速度が、高岡の時間の流れ方なのかもしれない。
雨の日に濃くなる、土蔵の青
山町筋を歩くなら、土蔵造りの壁も気にしてみてほしい。

黒漆喰の壁は、曇りの日や雨上がりになると、少し青みを帯びる。群青とも鉄紺ともつかない色が、土蔵の表面に薄く浮かんでいた。
日本海側の湿気を含んだ光や、長い年月をかけて残った雨跡。そういうものが重なって、山町筋の壁は、深く鈍い青に近づいていく。
毎日この通りを歩く人にとっては、見慣れた土蔵の壁。それでも雨の日になると、群青色が少し深く見える。
商いと暮らしを繰り返しながら、100年以上使われ続けてきた壁には、北陸の湿気や雨の跡がゆっくり残っていた。
予定を決めずに歩く
山町筋は、東西およそ500メートルほど続く商家町。

それでも、お惣菜屋をのぞいたり、昆布締めを選んだりしているうちに、気づけば予定より長く滞在している。
土蔵の群青色を眺めながら、また次の店へ向かう。山町筋には、そんな寄り道がよく似合う。