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「布施には行くな」と言われて育った僕が感じた可能性【ヨッピーさんが語る】

大阪市東成区深江で育ち、布施を“隣町”として見てきたライター・ヨッピーさん。全国各地の地域創生や観光の現場を取材してきた視点から、早くからSEKAI HOTEL Osaka Fuseの可能性に注目していました。

かつては「布施には行くな」と言われるほど、強烈な空気をまとっていたこの街。けれど今、SEKAI HOTEL Osaka Fuseは年間宿泊者数10,000人という節目を迎えています。観光地ではない布施に、なぜ人が泊まりに来るのか。ヨッピーさんに、少年時代の記憶と、SEKAI HOTELを見て「これは跳ねる」と感じた理由を語ってもらいました。

「布施には行くな」と言われていた頃

僕は大阪市東成区の深江で育ちました。深江の人間にとって布施は、ほとんど隣町みたいな場所です。家から一番近い繁華街が布施なんですよね。

でも、子どもの頃の僕にとって、布施は気軽に遊びに行くような街ではありませんでした。むしろ、大人たちからこう言われるんですよ。

「布施には行くな」

って。いや本当に。親や先生から、けっこう真剣なトーンで釘を刺されていました。ガラが悪いし、怖い人が多いから近寄るな、と。親からは、「布施に行く時は、二人乗りのバイクが来たらひったくりと思え」とまで言われていました。車道側を歩くな。カバンを離すな。そう教えられて育ったんです。それが布施という街なんですよね。

今の布施しか知らない人には、ちょっと想像しづらいかもしれません。でも、当時の布施は本当にすごかったんですよ。

小学校高学年くらいになると、親や先生の言うことなんて無視して遊びに行くようになるじゃないですか。すると、カツアゲみたいなことも普通にありました。中学生の頃、布施にある塾の帰りに同級生がカツアゲされているのを見かけて、助けに入ったことがあるんです。「何しとるんやコラ」と。そしたら翌日、中学校に金属バットを持った連中が30人くらい乗り込んできたりして。

高校生になると、当時の「セガワールド」が溜まり場でした。そこには近隣の荒くれ者たちが一堂に集まってくる。「おい、〜〜さんや。挨拶しろ」とか言われて、知らないヤーさんに挨拶させられたりもしました。

完全に『岸和田少年愚連隊』の世界観やんけ、と。ちなみに『岸和田少年愚連隊』のロケ地って、実は布施なんですよ(笑)学校のシーンってあれ、布施の中学校で撮影されてるんです。

もちろん、そういうガラの悪さは今となっては笑い話です。でも、当時の布施には、そういうむき出しの熱量がありました。綺麗に整えられた街ではない。荒っぽいし、危なっかしい。でも、やたらと人間の匂いが濃い街でした。

“浄化”されていく街で、残ってほしいもの

今、久しぶりに布施に帰ると、街はずいぶん変わったなと思うんですよね。

治安は明らかに良くなりました。昔みたいな怖さは、もうほとんどない。駅前も便利になったし、歩きやすくなった。街が“浄化”されていく感じは、肌でわかります。

それ自体を、悪いことだと言いたいわけじゃないんですよ。住む人にとって、安心して歩ける街になるのは当然いいことなんで。

ただ一方で、昔通っていた本屋がなくなっていたり、かつての景色が少しずつ消えていったりすると、やっぱり寂しさもあるんですよね。

大阪全体を見ても、再開発でいろんな街がどんどん綺麗になってるじゃないですか。梅田もそうだし、難波もそうです。便利で、清潔で、効率的な街になっていく。

でも、そのぶん「古き良き大阪」みたいな空気は、どんどん薄くなっている気もするんですよ。

そう考えると、布施みたいに“古き良き大阪の空気がそのまま残っている街”って、これから逆に価値になっていくんじゃないかと思うんです。

地元の人はいまだに「布施なんか何もない」と言うじゃないですか。

たしかに、有名な観光名所があるわけではありません。テーマパークもないし、絶景スポットがあるわけでもない。観光パンフレットに大きく載るような、わかりやすい目玉は少ないかもしれない。。

でも、僕からすると、それは「何もない」のではなくて、「観光地化されていない日常が残っている」ということなんです。

・モーニングが美味い喫茶店がある。
・商店街で人が普通に挨拶している。
・銭湯の湯気がある。
・肉屋のおっちゃんが揚げる70円のコロッケがある。

こういうものって、そこに暮らしている人にとっては当たり前すぎて、価値がわかりづらいんですよ。でも、旅人からすると、ものすごく贅沢な体験だったりするじゃないですか。モーニングセットが食べられる純喫茶ってかなり減ってますからね。

街で暮らすうえで本当に大事なものって、必ずしも大きな施設や観光名所ではないと思います。居心地が良くて、美味しいコーヒーが飲める喫茶店。気持ちいい銭湯。コロッケがうまい肉屋。生活に絶対必要ではないけれど、あるとちょっとテンションが上がるもの。

そういうものが揃っている街は、今ではむしろ貴重です。でも、そういう店ほど、再開発の中で消えていくんですよね。地価が上がると、どうしても効率重視になります。無機質なチェーン店が増えて、どこに行っても同じような街になっていく。

新宿や梅田で、70円のコロッケなんてなかなか食べられないじゃないですか。布施には、そうなってほしくないんです。

SEKAI HOTELを見て「これは跳ねる」と思った

僕がSEKAI HOTEL Osaka Fuseのことを知ったのは、2021年頃ですかね。まだ「まちごとホテル」という言葉が、今ほど知られていなかった時期です。その時に、率直に「あ、これは跳ねるぞ」と思いました。

僕は仕事柄、全国の地域創生の事例をいろいろ見てきたんですけど、そこでよく感じるのは、多くの取り組みが「観光客の方を向く」か「地元の方を向く」かの二択になってしまうということです。

観光客向けに作りすぎると、ホテルや施設の中だけで完結してしまい、地域にお金が落ちにくい。逆に、地元の人にとって良い活動を重視しすぎると、地域活動としては素晴らしくても、事業として続けるのが難しくなる。

その分断を、SEKAI HOTELはうまく飛び越えているように見えました。観光客も喜ぶし、地元の人も喜ぶっていう。

布施には、温泉地のようなわかりやすい観光資源があるわけではありません。だから普通に考えれば、「ここにホテルをつくっても人は来んやろ」と思われても仕方がない。実際、立ち上げ当初には地域の人から「布施にホテル? お兄ちゃん、それラブホの間違いやろ」と言われたんですよね?

でも、SEKAI HOTELが面白いのは、ホテルの機能をひとつの建物の中に閉じ込めなかったことです。

大浴場を自前でつくる代わりに、地域の銭湯を使う。ホテル内にレストランを抱えるのではなく、商店街の喫茶店で朝食を食べてもらう。お土産や体験も、街のお店とつなげていく。

つまり、街そのものをホテルの機能として再編集しているわけです。これは、かなり新しくて面白い発想だと思いました。

新しい観光施設をつくるのではなく、もともと街にある日常を、宿泊体験として見せ直す。しかも、宿泊者が地域を回遊することで、地域のお店にも人とお金が流れる。観光客だけが楽しいわけではない。地元のお店にも意味がある。ホテル単体ではなく、街全体の価値が上がっていく。僕が「これや!」と思ったのは、まさにそこでした。

布施のような街にある価値は、派手なものではありません。でも、派手ではないからこそ、簡単には真似できないじゃないですか。70円のコロッケも、朝の喫茶店も、銭湯の湯気も、商店街で交わされる何気ない会話も、長い時間をかけて積み重なってきたものです。歴史や文化と同じですね。

それを壊さずに、旅の価値として届ける。SEKAI HOTELがやっているのは、そういうことだと思います。

「何もない」と言われてきた街には、実は全部ある

地元の人が「何もない」と思っている場所に、外から来た人が泊まり、その街の日常を体験する。そこで初めて、「あれ、実はこの街って面白いんじゃないか」と気づく。

今あるものをじっと守るだけでは、街は続かないと思います。でも、壊して新しいものをつくればいいわけでもない。今あるものに、どう光を当てるか。日常を、どう価値として編集するか。SEKAI HOTELは、その答えのひとつを布施で実践しているように見えました。

そして実際に、2024年10月にはSEKAI HOTEL Osaka Fuseの年間宿泊者数が10,000人を超えたと聞きました。観光地ではない布施に、年間10,000人が泊まりに来る。これは、かなり象徴的な数字だと思います。

かつて「近寄るな」と言われていた街に、今では世界中から人が泊まりに来ている。昔の布施を知っている身からすると、不思議でもあり、でもどこか納得感もあります。布施には、もともと人を惹きつける力があったんですよねきっと。

ただ、それは観光名所のようにわかりやすい形ではなかった。だから、地元の人には見えにくかったんじゃないかと。SEKAI HOTELは、その見えにくかった価値に、宿泊という形でスポットライトを当てたんじゃないかなぁ。

今の布施は、駅周辺も便利ですし、昔みたいに怖くもありません。下町らしさがありながら、暮らしやすさもある。かなり良いバランスの街になっていると思います。この「下町だけど最高に住みやすい」感じを残したまま、もっといろんな人が布施の魅力に気づいてくれたらいいなと思っています。

そして、また布施で面白いことをやるなら、僕にもぜひいっちょ噛みさせてください。

「何もない」と言われてきた街には、実は全部ある。布施の面白さは、たぶんそこにあります。