電気風呂は楽しみをひとつ増やす装置
大阪府東大阪市出身のマンガ家であり、映像作家、そしてサウナ大使としても知られるタナカカツキさん。『バカドリル』のナンセンスギャグで人気を博し、「コップのフチ子」の企画・原案、『マンガ サ道』の著者としても知られるなど、その活動はジャンルを横断してきました。
そんなタナカさんが、SEKAI HOTEL Osaka Fuseの年間10,000人宿泊という節目に、地元・布施へ帰ってきました。舞台は、まち全体をホテルに見立てた商店街。銭湯の湯気にふれ、店先の声に耳をすませ、路地を歩く。
最終回は、タナカさんが布施で気に入った「電気風呂」の話からひもといていきます。
「楽しみをひとつ増やす」ための装置
「電気風呂は、楽しみをひとつ増やす装置」
電気風呂を、あえて健康法として語らないところが、いかにもタナカさんらしい。「治る」「効く」「改善する」といった言葉に寄せた瞬間、生活の中にある面白さは少し減ってしまう。
「効果があると言えないから、600円で入れる」
何かを数字で証明しないからこそ、日常の延長にそっと置いておける。劇的な治療ではなく、あくまで日々の中にある小さな刺激。効くではなく、気持ちいい。同じお金を払うなら、日常にひとつ楽しみが増えたほうがいい。そのシンプルな捉え方が、いまの時代にすっと馴染みます。

失われゆく「身体感覚」と直感の正体
「私たちは身体感覚を失いかかっている」
スマホの画面で食べ物を見て、イヤホンで街の音を遮断する。便利になった一方で、匂い、温度、風、人との距離感といった生きた情報に触れる機会は、少しずつ減ってきました。
情報にあふれているのに満たされない。選択肢は多いのに決めきれない。疲れているのに、うまく休めない。そんなときに必要なのは、新しい情報ではなく、身体に直接入ってくる刺激なのかもしれません。

「直感や予感は、身体感覚が受け取っている」
「なんかこの人いいな」
「この場所、落ち着くな」
そういった感覚は、頭で考える前に、身体が先に感じ取っているものです。匂い、音、光、温度、人の気配。身体が無数の情報を受け取り、あとから言葉が追いついてくる。だからこそ、身体の感覚が鈍ると、直感もまた鈍っていく。
商店街は身体で受け取る場所
「商店街って、実は身体感覚なんですよ」
タナカさんは、こうも語っていました。
人の声が混ざり合い、惣菜の匂いが流れ、看板の文字が目に飛び込む。すれ違う人との距離が近くなる。そうした情報は、頭ではなく、身体で受け取るものです。
不思議なことに、ノイズの多い環境に身を置くと、かえって人は少しゆるみます。閉じていた感覚が、ゆっくりとほどけていく。
商店街は、単なる観光地ではなく、人の感覚を少し戻してくれる場所なのかもしれません。

見えてきた「電浴ステイ」の魅力
SEKAIHOTELでの滞在は、ただ街に寝泊まりするだけではありません。
銭湯の電気風呂で身体に直接的な刺激を入れ、商店街の情報を全身で受け取る。店の人と挨拶を交わし、少し迷いながら歩き、最後に帰る場所がある。その一連の体験は、旅行というよりも、失われかけていた感覚を取り戻すための、小さなプロセスのようにも見えてきます。
タナカさんが布施で見つけた「新たな輝き」は、新しく作られたものではありません。もともとそこにあったものが、違う解像度で見えてきた。電気風呂は、その感覚をひらく入口のひとつです。少し怖いし、よくわからない。でも、一度入ると、世界が少し広がる。

電気風呂、水風呂、休憩。そのあとに、もう一度商店街を歩いてみる。
布施で過ごした夜は、あとから思い出すと、細かい場面で残っています。銭湯の熱さ、電気風呂の刺激、商店街の音、店の明かり、人との距離の近さ。
SEKAI HOTEL Osaka Fuseの滞在は、派手な非日常を味わうものではありません。いつものまちに泊まって、歩いて、店に入り、銭湯に行く。ただそれだけのことなのに、帰るころには、布施の見え方が少し変わっている。
それは、SEKAI HOTEL Osaka Fuseが布施でつくっている体験の本質なのだと思います。
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